第25話 魔界からの情報

「かなり苦労させられたよ。」

「ご苦労だった。でも、こちらも大変だったんだ。帰って着てくれて喜んでいるところだよ。」

 ハーン達は、数週間後に帰って来た。

 国が乱れると、その復興が第一のはずなのだが、権力抗争が始まるものなのである。チーク達は、クーデターに巻き込まれてしまった。クーデター派は、何故か、チーク達が国を乗っ取っていると言いたてて、近隣国に領土、利権を代償に援助を受け、愛国を旗印に決起し、王宮を急襲した。この時、チーク達が王都に集まっていたこと、彼らの兵力が少なく、また、作戦が稚拙だったことから、また、事前にだだ漏れだったため、チーク達により、あっさり鎮圧されてしまったのだが。

「魔界の状態はどうだった?何か分かったか?」

 チークが尋ねると、ペアナが、

「末端のところで探ったからな、具体的な、はっきりしたことまでは分からなかったが、ぼんやりしたどころは分かった。」

「関連して、面白い、といっていいか分からないが、幾つか情報がある。うちのパーティーに関連することでだ。」

 ハーンが引き継いだ。

「よく説明してくれ。」

 それから、一カ月以上が過ぎた。

「ネリモノ準侯爵、チーク様は何処だ?こちらに居られると聴いたのだが。」

 野戦陣地の構築作業を指揮しながら、自分もシャベルで塹壕の掘削作業をしている親方らしき若者に、若いが、上等な身なりの王宮の使者だと分かる男が尋ねた。

「ちょっと、その方がネリモノ準侯爵チークよ。」

と女の声が、聞こえた。慌てて振り向くと、小柄の彼より背が高いが、若い美人で、薄いシャツだけになっているため、その魅力的な体がはっきり分かるため、男は、生唾をごくりと飲んだ。寒くなりかかっているが、作業で汗が出るため、誰もが、薄着となっている。

「あ、ちなみに、私はネリモノ準侯爵正夫人ボカよ。」

 その後ろに、彼女に劣らない、かつよく似た美女が、真っ赤な顔な顔をして現れた。

「何、デタラメを言っている!」

 肩をぐいっと引っ張ったが、それに負けず、

「あ、これ?第二夫人だから。」

「何ですって!」

 呆気にとられていると彼に、チークがようやく声をかけた。

「申しわけない。まだ、このような呼ばれ方に慣れていなくて、遅くなってしまったが、ご用件は?」

 男は、慌てて彼の方に顔を向けて、まず頭を下げた。

「こちらこそ、大変失礼申し上げました。国王陛下より、至急のご相談があるので王宮にお出で願いたいとのことです。」

 付け加えるように、

「勇者パンが、魔王を倒したとの報が届いたことに関することかと。」

「分かりました。出来るだけ速やかに、王都に向けて出発しましょう。」

「分かりました。」

 男は頭を下げてから、まだ争っているカーマとボカの脇を駆けていった。

 チークは、現場をまかせる猪頭のオークの女を呼び、事情を説明し、後をまかすことを告げ、必要な指示をした。彼女は、

「分かりました。お気をつけて。準侯爵様。」

と言って頭を下げた。

 辺りは、人間や亜人から魔族まで雑多な連中が働いていた。

「皮肉なもんだな。」

 彼らは、逃れてきたのだ。人間から魔族までが共に暮らす、或いは、亜人から魔族までが共存する、全ての亜人が家族のようになるという集団から逃れて、ここで共に、共存して、協力して生活しているのである。

 彼らの受入には、当然反対があったし、奴隷とすればいいと言う意見もあった。先の魔族の軍に蹂躙され、貴族や騎士の多数を失っただけでなく、農民や手工業なども多数失い、さらにその後の混乱、挙げ句の果てに、ご丁寧なことにクーデター、反乱が発生したことで、それに拍車がかかった。あまりの人材不足で、本来なら、働き、功績を見て与える爵位などを、早々に与えるということになった。反対を通す貴族そのものがあまりにも少なくなってしまっていたのだ。

 ただ、絶えてしまった貴族の爵位、地位、所領を与えようということには、チーク達の方が辞退した。後々の反感を恐れたのである。出来るだけ、遠縁であっても、その一族に属する者を、能力があれば、家名を継がせる。所領の一部も継がせることを進言した。その上で、「準」をつけた爵位を受け、ある程度の所領を受け取った。農民などの不足で、領主生活どころではなく、事情があり、王国の管理にまかせている。形の上、そういうところが大半であり、国王領が大幅に増加しているが、それで国庫が豊かになっているわけではない。

 しかも、戦いが逼っているのである。流入してきた人間から魔族まで、定住させ、生産、軍事の体制に組み込まなければならなかったのである。ただ、取り敢えず軍事関係にまず配分せざるを得なかった。

 ハーンとペアナ達が聞き込みにまわって得た結論は、前回の敗戦にかかわらず、将兵が集まりつつあるということだった。前の軍とは関係ない魔族の部族が遠方からやって来ているということだった。しかも、不明だが、何処か一本で結ばれている、というか統合されていると印象だった。その中で異色な集団が幾つかあった。亜人の幾つもの種族からなる、時には魔族もいるグループだった。人間は、ごく僅かしかいない。人間こそが悪であり、全ての種族の平和・共存を標榜しているが、そんなことを考えていない魔族の軍と行動を共にしていることも矛盾だが、そこからの離反者がかなりいて、ペアナ達が接触して、こちら側に誘導している。もう一つ、少数の魔族を率いる魔王達がいることだった。魔王の、と称するリーダーの実力は、さほどではないようだった。こちらも勧誘工作をしている。

 どの程度の兵力が来るのか、パンと魔王討伐軍がこちらに何時救援に来るかが鍵に鳴りそうだった。

 そして、元勇者や元聖女、元王女とかも加わっているという噂があったが、どうも、ゴウとターミアが殺した勇者やスティとキアが殺した聖女などもその中にいるらしいというのだった。

「自分を裏切った人間に復讐するとほざいているという噂だ。」

 ペアナは、溜息をつきながら言った。

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