第23話 流れ流れて
彼は、ターミアの家臣の一人だった。幼い時から、よく一緒にいたゴウのこともよく知っていたのである。ターミアの没落、行方不明後、ターミアやゴウの残された家臣、使用人は、一部は取締の対象とはなったものの、殆どは、そのまま他家に務めることになった。その後、彼女がいなくなったことでの王宮内での勢力バランススの変動、共通の敵がいなくなった、昨日の友敵は今日の敵状態から、直ぐに政争が起きた。それは、最小限で終わったものの、武力抗争もあった。彼は勝った側の末端にいたから、この時点では上手く身を施したと言える。少しばかり出世して、国境警備の小隊長になった。が、そこからが暗転した、彼の人生は。魔族の兵の来襲で小隊は壊滅、彼は捕虜となり奴隷にされたのである。
「しかし、どうしてこんなところに?」
「わかりませんが、それよりも。」
重大なことが、彼は語り始めた。
10人の奴隷のうち半分が転売は取りやめた、半分5人が誰かの知り合い、関係者だったからだ。あと半分5人は転売予定で交渉中だった。転売出来なかった分収入減、皆への分配が減ることとなるわけだから、とりあえずチークは、関係者であるメンバー負担でと言わざるを得なかった。
「誰か、嫁さんに口説くか?」
カユへの冗談はまだ、忘れていなかった。いや、半ば本気だったらしい。女が、転売予定も含めて6人いるからだ。
「よしてくれよ、リーダー。女達は、みんな好みなんだから、本気になっちまう。」
照れ笑いしながら頭をかいた。が、直ぐに真顔になって、
「追っ手がいるらしいという話は、どうするんだ?」
「ああ、そのこともだが。」
「そのことも?まだ、あるのか?」
「彼らの話、共通した話で、気になることが。」
「え?なんだい、それは。」
「分かるわよ、あんたの心配。」
カマが、割り込んできた。
「姉さん。買い物はすんだのかい?」
チークが、突然の登場といきなり抱きつかれて、溜息をつきながら言った。
「もう、素直に悦びなさい!美人の姉に愛されて!まあ、其れはおいておくとして、遠く離れた場所で、魔族の奴隷にされた面々が、一カ所に集まったってことでしょう?」
そう言いながら、豊かな胸を押し付けてくる。
「ペルナも、あの魔族は複数の部族がいるような気がすると言っていたものね。」
それは、ボカだった。いつの間にか、チークの隣に座って、彼の手を自分の胸に、自分の手を彼の下半身に置いていた。
「ボカ!何やっているのよ!昼間から、チークを誘惑して!」
「姉さんだけには、言われたくは、ありません。あ、でも、魔族を統一した大魔王みたいのができていてもさ、私達が矢面に立って戦う必要はないんじゃない?最悪、逃げてしまってもいいんじゃない?」
「私は、チークと2人なら、どこでも、私は幸、せ、よ。」
「お姉ちゃんとじゃなくて、わ、た、しとよ。」
睨み合いを始めたり二人とそれに、すっかりあきらめ顔チークを、肴にカユはビールをながしこんでいた。
「リーダー。昼間から大変だな。あっちの宿から、手紙だよ。」
イクだった。妹のスージィががっしりと腕を組んでいる。
“こっちも、あきらめたな。”こちらも、ビールの肴にするカユだった。
「君だけには言われなくないんがね。」
イクから、羊皮紙の手紙を受け取った。
「どうしたんだい?」
手紙を読み終わり、沈痛な表情になった3人、カーマとボカは脇から、盗み読んでいた、を見て、イクが心配そうな顔をして尋ねた。スージィァも、兄の反応に不安を隠さなかった。“なんだ?”目の前のジョッキの脇から、チークを見ながら、顔色は変えずに、訝しんだ。
「家賃の値上げかい?」
チークは、直ぐには応じなかった。カーマとボカが睨んだ。
「戻れなくなりそうだな。あの話、受けた方がよさそうだ。」
溜息をつきながら、考えあぐねているような顔でボソッと言った。
「あの話?」
「皆が集まってから説明するよ。」
夕食が終わってから、おもむろに、チークは話があると切り出した。待っていたように、全員が沈黙した。ミカエルとクロが、部屋の外に誰もいないことを確認する。シロがドアを閉めた。
「仕事の依頼が来ている。報酬の約束は魅力的だが、幾つか問題が有るんだ。その最大のものは、拠点を移動しなければならなくなる、数年間は戻れないということなんだ。それに、約束がどの程度確かかが不安だし、もしかすると危ない仕事になるかもしれない。本当なら断る方がいいんだが、手紙があって、帰ることが出来なくなった、それ故に、この仕事を受けたいと思う。拒否して出て行くことは拒まない、ちゃんと餞別なり渡すつもりだ。」
「リーダー、どういう仕事ぶりなのかを説明してくれないか?いや、まず、手紙の内容を説明してくれよ。」
カユが苦情を言った。
「手紙は、俺達が根拠地にしていた安宿からだ。頼んでいた情報が来た。」
「その内容は?」
「3組、追っ手が、来たらしい。」
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