第22話 魔王さま、姫様…
「分かったよ。でも、彼らは君たちが養うということで、報酬は君たち分だけだよ、彼らの分は、当分なしでいいね?」
チークが言うと、皆は頷いた。
報酬の何割かが現物支給になったのだが、その内の一部として、奴隷10人を無償で与えるということになっていた。奴隷は市の奴隷登録したものから選べというものだった。奴隷が与えられても、養わなければならないし、その分以上を稼ぐ、或いはそれに準じる価値がないと、単なるただ飯ぐらいでしかない。
「そのまま転売だな。」
カユの言葉に誰もが賛成だった。
「カユ。嫁さんにしたいのがいたら、1人例外にしてやるぞ。それだけの貢献はしているからな。」
「それなら、張り切って厳選しないとな。」
チークの言葉にカユが、剽軽に応じた。奴隷選びもカユに任せることになっていた。ペアナとハーン達も同行したが。
市の担当者から、奴隷市場に案内された。
「はっきり言うと、あまり気分のいいところではないな。」
カユの言葉に皆が頷いた。奴隷はさほど多くはない。奴隷経済が動いているわけではない。しかし、需要も供給もある。犯罪者とその家族、債務者、戦争捕虜、略奪・誘拐などで供給される。チークの言ったカユの嫁とは、解放してという意味ではある。彼も、少しは考えたが、市は、誰でもと言ったのにもかかわらず、一画に限定した。美人の女は駄目らしかったので、彼は早々にその目的は放棄していた。
彼らが選べる奴隷がいる檻が並ぶ一画に案内された。今回の戦いで得た魔族の捕虜が半ばちかく、後は戦火で逃げ惑っているうちに捕まって奴隷商に売られたとかの人間や亜人だった。
「魔族の扱いは如何なんだ?」
「気になるか?」
「なるな。人間を非難出来ないとは思っているがな。同じようなものだが、ここの檻の方が、まだましだ。あまり悲惨だったので、我が買ったこともある。そばで使ってやったが…そんなことで恩に感じて、我に最後まで従いおって、馬鹿な奴も…。」
しんみりした口調だった。ハーンが抱き寄せた。
「魔族は扱いが難しいということで、あまり人気はないな。」
彼女の言葉を聞いて、話してやらねばとカユは思ってしまった。
「オークやオーガが買う場合が多いと聞くな。エルフは、ダークエルフをなら買うらしい。どちらかも待遇がいいとは言えんようだな。人間型魔族は、人間達も買うが、こちらも幸せとは言えんな。ただ、魔族とのハーフとか、魔族の血が流れている貴族ですらいるから、その意味では少しはましかな。」
チラっとペアナを見た。彼女は少し微笑んで、
「魔族の間では、人間・亜人のハーフなぞいなかったな。」
それから、奇妙だなという顔で、
「魔界に、ダークエルフなぞおらんぞ。ハイエルフやその他のエルフ達にハーフエルフだぞ。肌の黒いエルフもいたが、ダークエルフなぞとは言っておらんかったぞ。」
「前々から話しが合わないと思っていたが、そういうことだったか。」
ハーンとペアナとの話しとなった。2人とも、互いの説明を、
「はあ?」
という顔になって聞いた。皆は、後で結果を聞こうという顔になっていた。ハーンでも、魔族のことに無知なところがあるのかと、あらためて思った。
「それで、どういう奴隷を選ぶんだい?カユ。」
「まあ、転売して高く売れそうな奴らだな。美人に見える奴とか、逆に体力がありそうな奴とかだな。ん?なんだ?」
カユは、彼を呼ぶ声に気がついた。声の方向を見ると、小柄な人間型魔族の女が彼を呼んでいた。
「ちょっと。そこのひと。」
近づいてよく見ると、人間型魔族の女で、人間としてみても、十分若く、魅力的だった。
「なんだい?俺に売り込みか?残念ながら、魔族は美人でも…。」
「私は、人間よ。でも、そんなことはどうでもいいのよ。あそこにいるのは、魔王様でしょう?お呼びしてちょうだいよ!」
「?」
とは思ったが、女の必死の懇願とペアナのことを知っているということの重大さから、
「わかった。取り敢えず静かにしていてくれ。」
女が静かになったのはのを確認すると、ペアナのところに駆けよった。まだ、ああでもない、こうでもないとハーンと話していた。
「すまんな。お二人さん。」
そう言って、事の次第を説明した。それを聞くと彼女は、慌てて駆けていった。ハーンも続いた。
「魔王様、御無事で…。」
女は涙で声がでなくなった。
「お前は…、如何してこんなところに?あの時、人間達に保護されたのではないか?」
覗きこんだペリアは、自分に最後まで着いてきた人間の奴隷の1人だと気がついた。
「あの後、魔族に違いないとか言われて、奴隷に売られ、転々として、あの魔族の軍の奴隷として。」
そう言って泣く彼女の隣の檻から、
「姫様では、あ、王子様も?」
と声が上がった。今度は、ターミアとゴウが驚く番だった。
「何であなたがここに?」
「まさか、僕達のために?」
彼は平伏した。
「お恥ずかしいところをお見せして申しわけありません。全ては、お二人のだめに何も出来ず、保身しか考えなかった私の罪でございます。」
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