第20話 好きだったんだろうけど
「なのに俺は…。」
どうして殺してしまったんだ、というように頭を抱えてしまった。しばらくして顔を上げた時、目が、真っ赤になっていた。トウを見る目は、“どうしてあんたは助けられたんだ?”と問うようだった。自分との違いを知ったところで、こうしていれば良かった、と分かってもどうしようもないことなのだが、かさぶたを取る痛みを快感に感じている状態だった。イーカ達3人は入り込めない状態で戸惑っていた。トウは察したように、
「なあ、あんたと俺の場合は異なるよ。彼女は俺のために仲間を裏切った。その魔族は仲間のためにあんたを裏切ったんだよ。」
「でも、彼女は…。」
「ヤクスさん。彼女は、あんたを好きだったんだろうけど、仲間との絆を優先したのよ。あんたを殺すつもりだった。そして敗れて、殺されることになった。殺す相手があなたで、あなたが生きていてくれて嬉しかったんだと思うの。謝れたと思ったのかも。でもそれだけのことよ。」
「あんたが、その…なんだ、前世かなんかで…彼女が魔族だって知っていたというけど…もし、何とか出来たとしたら、言いかえると、彼女に仲間を裏切らせるということになるのではないかい?それも彼女には辛いことを強いることじゃないか?」
それでも、彼は大粒の涙を流し続けていた。
「それにさ、俺には彼女しかなかった。彼女と一緒に全てから逃れたかったんだよ。それに比べて、ヤクスさん。あんたは、守ったじゃないか。ずっと俺なんかより立派だよ。」
慰めるように言ったが、“そうだ、自称勇者でどうしようもなくなっていて、逃れたい、逃げたいと思っていたかも。”それに気がついて、少し呆然としている彼の手をフィアが察するように、優しく握った。“私も逃げたかったのかもしれない。”2人は見詰め合って、ヤクスのことを忘れてしまったが、スー達が、
「あんたは、私達を助けてくれたのよ!」
「あなたがいなければ、私達はどうなったと思う?」
「だから、責任をとれ!」
と自分達も泣きながら、彼を抱きしめていた。
「あんたが、悪党だなんて思っていないよ。分かっているだろう?」
「だからさ、あの時、直ぐに私が弁護したら、かえって不味いだろう?」
直ぐに弁護しなかったということで、元王女2人に拗ねられて、元勇者と元王子は必死に彼女達の機嫌を取っていた。
「まあ、魔族の行動としては解せんのう。あのように、他の魔王のために陽動作戦をなど。手を結んでなぞした例は知らぬな。」
ペアナがチークの懸念に腕を組んで唸っていた。
「魔王達の関係を変える何かがあるのかも。」
ハーンはそう言ったものの、それが何かは思いいたらなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます