第19話 私なら殺すわよ
屈辱ではあるが、金貨は受け取ることにした。リーノが帰った後、カーマとボカは悔しそうな顔だったが、黙っていた。言えば、聖槍が怖かったということになるからだった。それに、一番の被害者は、屈辱を受けたのはチークだったからだ。沈黙がちの中で、ポツリと、
「あの娘、やばいかもね。私なら、殺すわよ、そのうち。」
「そうね。勇者の愛人ぶってしゃしゃり出られたら、彼女達の嫉妬程度にとどまらないものね。」
それから慌てて、
「聖女達や彼女達の母国の立場から考えてみただけよ。ねえ?」
「そうですわ、もちろん。政治が絡んでくると。」
と弁解するように言って頷きあった。しかし、皆の目、二人を除いては、“やっぱり腹黒王女?”というものだった。
「あの嬢ちゃんを見てると、聖女様達は、姫さん達の言うように思われているだろうな。」
カーユだった。
「俺は見ていないが、同業者の話だと、あの聖槍、かなりなものらしい。パンと肩を並べて戦ったらしいし、かなりの奮戦ぶりだったとか。もうパンの隣に自分の立ち位置を決めてしまったようだ。聖女様達、面白くないわな、多分。」
グイとビールの入った大きな杯を一気に飲み干した。
「あの馬鹿女。」
カーマとボカが呟いた。彼女のことは怒っているが、同郷の幼馴染みであり、パンが来るまでさほど仲が悪かったわけではない。複雑な思いもあった。チークは、複雑な顔をしていた。彼は自分が何を考えているのか、考えたらいいのか分からなくなっていた。
「でも、パンは強かったね。私は、絶対勝てないと思ったわ。」
雰囲気を変えようと思ったのか、ミアが突然話題を変えた。そう言うミアは、でかい魔獣は一撃で倒したし、魔族の聖騎士の一隊をほとんど一人で瞬く間に殲滅して、さすが元勇者だとペヤナが褒めたほどだったが。
「俺も同じだな。」
「俺も右に同じ。まあ、屑の俺と比べられたら怒るだろうけど。」
「フン。」
と言った後、ペヤナは、
「お前らの活躍ぶりは、かなりなものだったぞ。まあ、それでも奴の方が上だろう。なあ、我ら二人でも無理か?」
ペヤナに突然振られたハーンだが、即、
「聖剣とかの差が大きいが、それなしでも、…お前を抱えて逃げなければならなくなりそうだな。」
「なんじゃそれは。わしが、まるで小娘みたいではないか。まあ、若くて可愛いがな。」
とハーンにすり寄った。一同が笑った。チークも笑ったので、何人かが安堵した。沈み込みがちだったイークは、それが面白くないと膨れる妹の機嫌をとっている間にそれを忘れていた。ヤクスも、3人の機嫌取りに追われて、憂鬱の虫を取り落としてしまっていた。ミアについて入団した、トウとフィアとの話からだった、ヤクスが落ち込んだのは。フィアは魔族の女だ。人間界に入り込んで、戦士、強い戦士を狩って賞金を得るグループに属していた。彼女は自称勇者とその仲間たち、10人に満たないパーティーに入り込んだ。その自称勇者がトウだった。自称勇者がいたるところにいても問題ない地域だった。実力はあるが、ミア達のように選ばれたとか認定されたのとは異なるので、実力はかなり劣る。彼女の場合、彼と過ごすうちに好意をもつようになり、結局恋人になった。が、彼女の正体が他のメンバーにばれた、トウもその時はじめて知ったのだが。彼女が告白したのである。そのお陰で魔族の賞金稼ぎのグループを返り討ちに出来たのであるが、誰もがそれでも彼女を許そうとはしなかった。トウに、自分達と彼女のどちらをとるかと迫った。彼はフィアを取り、他のメンバーを追放した。が、彼の評判はがた落ち、赤丸急降下、国に居づらくなって逃げてきたと言う。その経歴を知って、ヤクスが尋ねたのである。
「あいつは、最後、俺に殺される直前、笑っているようだったんだが、本当はどうだったんだろう?」
フィアは、悲しげな表情で、
「彼女は…、やっぱりあんたを好きだったんじゃないかな。」
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