第18話 人間達の気持ちも分かる

「本当に、洒落ていて、上手いな、人間達の菓子は。」

 食堂で、ペアナがナッツの入ったケーキを頬張りながら、満足そうに言った。

「私もそう思うよ。私は、森のエルフだったから、粗末なものしかなかったんだよね。でも、魔王様もエルフだったから同じじゃない?」

「わしは、王族だったから、ハイエルフとはいえ、王都で生まれ育ったからなあ。まあ、しかし、何ごとも大雑把だったな。」

 港が見える窓の方に目をやった。“海か。”

「そんな魔界の大雑把さの方が気が楽だという人間もいそうだな。エルフのそうした暮らしに理想を求める人間もいるからな。」

 ハーンも、二人とは別の菓子をつまみながら、話に加わった。

「直ぐ失望するわよ、よくいわれているエルフと実際はかなり違うから。ところで、魔王様は魔族と戦うことはどうなの?」

「人間達の気持ちが分かったな。我らは、色々複雑な理由はあったが、…人間達から見れば、略奪、侵攻、抗争がまず頭にあったな。それが、こちら側にいると、そんな魔族を迷惑だと思える。」

「まあ、程度の差だけどな。」

 ハーンが自嘲気味に言うと、ミア達も頷いたが、

「そうだな。しかし、お互いに和平交渉など我々は考えなかったな。もし、があれば、ほとんどあり得ないが、もっと違った魔王になれるかもな。」

「お前なら可能かもな。人間の取り扱い方が寛大だったからな。」

 ハーンは、また弁護するように言った。

「そうだったんだ?」

「最後さ、彼女に最後までついてきたのは、人間の方が多いくらいだった。」

「そうなんだ。」

 そう言いつつも、取り敢えずの安全のためだったのでは?とも皆思った。

「あやつらも、あの後のことで、バラバラになってしまったがな。無事でいてくれてほしいな。」

 最後の言葉に、皆の彼女への印象が赤丸急上昇で良くなった。

「捕虜にした人間達を単に奴隷としてだけでなく、と考えたのは確かだが、なにかが変わるには短すぎたな。」

「魔王様は何歳なんだ?」

 睨みつけられたシロは、たちまち小さくなった。しかし、すぐに彼女は笑って、

「まだ、22だ。見た目より、歳が上だろうがな。」

 それにみんなが笑った。

 そして、

「ここ美味しいんだよ!」

の声と男1人と女の子たち3人の姿。

「なんだ、みんなも見つけていたの!」

「お前達は、市内見廻りの当番だろう?」

「もう一周したよ。だから、もう終わり。」

 彼らは、近くのテーブルの席に座った。皆、戦いが終わって、楽しみたかったのである。それは、その夜まで続いた。

「まあ、報酬も、一応確保出来たということで、乾杯といこうじゃないか?」

「何で、おっさんが、音頭をとるのよ?」

 高々とビールの入った杯を掲げたカーユに、クロが異議申し立てをした。

「まあ、おっさんが一番年寄りなんだから、いいじゃない。」

 ミカエラが意地悪そうな笑顔を浮かべて間にはいると、

「二人とも酷いな、可愛い顔して。」

 カーユが、如何にも傷ついているというような泣き顔を浮かべると、皆が微かに笑い声をあげた。それを聞いて、彼はニヤリとして、

「まあ、リーダーに乾杯の発声はしてもらおうか。」

とすかさず譲った。チークは苦笑して、“3人して…。”

「みんな!よき結果を喜ぼう!乾杯!」

 カーユが猿芝居を演じたのは、直前までの沈鬱な雰囲気をはらうためだった。“俺は早く酒が飲みたかっただけなんだよ。”カーユは、心の中で弁解するように毒づいた。

 あてがわれた宿泊場所的での夕食の席で、チーくが市との交渉結果を説明すると、“まあ、不満だが、満額に準じるし、後の警備の報酬も約束されたからいいか。”と腹7部半の満足で了承ということで納得というところだった。その時、大きな袋がテーブルの中央に投げ込まれた。周囲の皿の何枚かひっくり返り、中身がこぼれた。同時に、口を閉めた紐が緩んで中身が少し出た。 

「金貨だ。…金貨の袋か?」

「そうよ!」

 聞き覚えのある声だったが、チークは振り向かなかった。声の主はリーノだった。

「勇者様からよ。可哀想なあんたに恵んでくれたのよ。感謝しなさい!さあ、お礼はどうしたの?私にいう必要はないのよ。勇者様のおいでになる方に土下座してお礼を言いなさいよ!ほら、どうしたのよ!」

 カーマとボカは振りかえっていた。チークが、二人の手を握り離さなかった。リーノは、聖槍を相変わらず手にしていた。鎧の上に上衣を羽織っていたが、一目で上等なものだと分かったし、髪飾りもそうだった。かといって、ひどい贅沢品というわけではなかった。彼女の言ったことは、半分は嘘というわけではなかった。パンに、各国から今回の戦勝の功績への報酬が届いたが、その一部をチーク達に譲ったのである。彼らが持ち堪えてくれた功績と彼到着後の働きも加味して、彼らが分配されるべき分をということだった、パンの言い分は。

「虚礼はしない。勇者様には、お会いできた時に、お礼は言うが、君の口から感謝していると伝えてもらえると嬉しいよ。」

 彼は、不自然なほど無感情に答えた。リーノの彼の後頭部に穂先を突きつけた。カーマとボカはいきり立ったが、手を離そうとしなかった。

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