第16話 ざまあされる?
「まあまあ。そのようなことは…。彼らが今まで頑張ってくれたから、この地域は救われたのだから。彼らは、賞賛されるべきで…。」
パンがオロオロするように間に入っては取りなした。
「勇者様が、そう仰るなら。勇者様の寛大さに感謝しなさい!このシスコン馬鹿男!」
リーナだった。彼女は、まだ怒りが治まりきらない様子だったが、パンの取りなしに従わざるを得ないという表情で、プイと横を向いた。それでも、更に、
「姉妹に守ってもらって恥ずかしくないのかしら。」
カーマとボカは爆発していたが、チークが必死に肩を抱きしめて抑えていた。
「今ここで騒いだら、立場が悪くなる。耐えてくれ!」
必死に耳元で囁くチークに、二人は従わざるを得なかった。
“この仕事を受けたのが間違いだったな。”チークは思わざるを得なかった。
かなり南の港湾都市のタコ市からの依頼は、海陸の魔獣退治だった。手に負える者がいないということでの依頼だった。かなり高額の依頼であったので受けた。魔獣の情報についても、出来るだけ検討した上でのことだったし、皆で相談した上でのことだった。
数日間の旅で着いた時から、ケチがついた。
「勇者パンはどなたかな?」
迎えた市長の第一声だった。別に名指しではなかったので、そのようなことは考えることもなかった。彼らの持っていた情報がかなり前のものだったのか、依頼が受諾されてから勘違いが起きたのか、は分からないがタコ市側が、この時大いに失望したことは確かだ。一時は追い返せという主張が出たという。そんなことをしたら、ここまで来て帰る旅費、手間賃を含む違約金を支払わねばならなくなるが、
「騙りだから、支払う義務は、ないはずだ!」
だという主張がかなりあったらしい。さすがにそれは大勢を占めるには至らなかった。
「仕方がないから、任せよう。」
ということになった。
数日後、その魔獣達をチーク達は一掃した。かなりでかい、強い魔獣達ばかりだった。
「全部合わせると、私が倒した魔王以上だったよ。」
ミヤが言ったくらいだった相手だから、苦労はしたが、全て倒すことが出来た。問題はその後だった。魔王軍が来襲したのである。隣接していた一小国を席巻して迫って来たのである。
勇者パンを先頭にした帝国軍が魔王軍を破り、魔界に侵攻して追撃中という話を聴いていた、誰もが。だから、帝国と周辺諸国の兵力の大半がそちらの戦線に投入されていて、他の地域はさほど兵力がない状態だった。
「あの魔獣達を倒してしまったせいかな?」
チークは、ペアナに尋ねた。
「かもしれないが…。分からん。境界を接していた魔王が、いたことは知らん。我は逆方向から来たからのう。」
「パンの勝利のためかもしれないな。手薄なところを狙ったのかもな。」
ペアナとハーンの見解どおりだろなとチークは思った。
周辺から兵力を集め、防御陣地の建設をする一方、パンをはじめとして応援、救援を求める使者が送られた。
勇者パンであっても、魔族の軍を1人で潰せるわけではない。魔王軍と戦うには、その後ろ盾の軍、それなりの人数、それなりの質を持ったものが助けてもらわなければならない。
チーク達は、否応なしにタコ市の守備隊にならざるを得なくなった。そして、彼らはよく戦った。彼ら虹の戦士団の奮戦が、あったからこそ持ち堪えたということは、誰の眼にも明らかだった。
パンを先頭にした救援軍がやって来たのを見て、魔王軍は撤収を始めた。それを追撃してから、パンの軍は、タコ市に入城した。守備隊の指揮官になっていたチークをはじめとした虹の戦士団の面々も市長をはじめとする迎える側の中にいた。
パンは市長の感謝の言葉を受けた後、チーク達を目ざとく見つけて、声をかけたのだった。
「久しぶりだね。あれから、大活躍だったようだね。」
「勇者様のご活躍こそ国中語られていますよ。私達のパーティーで一時とはいえ、ご一緒出来たことを誇りに感じています。」
「いや、私こそ、あの日々は楽しい思い出だよ。」
握手していた二人を見て、リーナが駆けよってきた。一瞬、懐かしい思いが顔に浮かんだチークだったが、すかさず両側から抓られたが、彼女の顔は怒りと憎しみで歪んですらいたのを見て、思わず顔を強ばらせた。彼女は、手に格の高い聖槍を握っていた。
「勇者様を追い出しておいて、何様の顔をしているのよ!」
彼女の怒号に周囲が、引いてしまうほどだった。
「今、あんたがやることは土下座でしょう!土下座して謝りなさいよ!恥ずかしくないの!あんなことをしておいて、恥ずかし気もなく、命乞いをするなんて、どういう神経よ!私なら自決しているわよ!さあ、土下座しなさいよ!死になさいよ!」
拳を握るカーマと剣の柄に手を掛けたボカの肩に両腕をまわして抑えた。パンは、おろおろとしながらも間に入った。
何とか彼女を自分の後ろに下がらせたパンは、彼の所に歩み寄り、彼の手とり、そして、肩を抱き合いながら、
「君たちが、タコ市を守ったんだ。」
そう言ってくれた。彼なりの心配りだったのだろう。直ぐに彼は、その場を離れた。
「魔王を倒してから、互いの武勇伝を語り合おう。今は時間がないから。」
その一瞬、彼に言葉を残した。
彼の背に、頭を下げたチークが頭をあげた時、目の前に槍が突きつけられていた。
「いい気にならないでよ、クソ野郎。あんたは、底辺で満足していなさい!」
動かない彼に、舌打ちをして彼女は行ってしまった。両腕を拡げて、怒りで涙を流す姉妹を止めた。
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