第15話 人間達も大変だな
「人間達も大変だな。」
ペアナはビールを飲みながら言ったのは、あの戦いから数日が過ぎて、根拠地にしている安宿の食堂でであった。大変だな、とは戦いが終わってからの後始末のことだ。当初の傭兵契約が継続ということで手が打たれ、傭兵団とヅケ市の両者が今回の騒動で生じた迷惑料を支払うということになった。その中から、チーク達の報酬が支払われたわけなのだが、ヅケ市の有力者の何人かが市民の襲撃を受け、酷いところだと家族が皆殺しになったところもあったらしい。契約料金の切り下げを主張し、その後、傭兵団と結託した連中である。ヅケ市内の勢力争いの果てとも言える。改革派を気取っていたのだが、その時々で上手く立ち回ろうとしたが、上手く行かなかったのだ。最後はヅケ市を助けるために、他の都市や村々などに略奪を向ける密約を結んでいたらしい。とにかく、彼らの死、一族の没落で全ては終わったわけである。
「じゃあ、魔族も複雑なの?単純に力だけの単純な世界かと思っていたんだけど。」
ミアの質問に、皆が同感、といった表情だった。ミアは前世兄のスティ他5人と共に、チークのパーティーに加わったのだ。ペアナは、無礼者め、といった風で皆を見たが、溜息をついた。
「まあ、我らも人間達は皆単純に上に従う連中だと思っておったからな、お互い様かのう。人間より魔族の方が荒っぽいことは認めるが、陰謀やら権謀術数とか、力だけではなく、悪知恵も展開して、裏切やら、駆け引きやら、男と女、不義密通、嫉妬とか激しいぞ。」
「でもさ、私達が倒した魔王、あの巨大なカエルみたいな奴、そんな複雑なこと出来たかな、と思うんだけど。」
「そいつは、魔王ではないな、単なる魔獣だ。魔王並み、どこぞの魔王より強いかもしれないが。」
「え、でも、魔王だと…。」
「まあ、俺達人間や亜人の側から見るのと、魔族から見るのとは違うんだよ。」
ペアナとミアの話にハーンが割って入った。
「俺達にとっては、脅威で、強大な力を持って、配下がいれば魔王だが、魔族にとっては、魔王も手に負えない力があり、知能があり、従う魔獣が多数いても単なる強大な魔獣という場合があるんだよ。」
「あの魔獣は、知能があり、周辺の魔王は太刀打ち出来なかったと聴いておったものだ。我も、多分、かなり手こずった、いや、無理だったかもしれないな。」
彼女も妥協するように、そんなことを言った。
「あなたでは、私は勝てる自信はないもんね。」
ミアも妥協した。
「でも、そんな手強い魔獣がいなくなったら、他の魔王が来るんじゃない?」
「その可能性はあるな。」
ペアナはあっさり認めたが、ミアの方はあまり気にしている風ではなかった。
「別に大して義理はないし、しいて言えば、義理はあれを倒したことで終わっているもん。」
「他の勇者もいたし、俺達はあまりいい待遇ではなかったんだ。それに、2人とも余所者だったしな…。ミアは、ハーフエルフだって、ハイエルフどころか、他のエルフ属からも、下に見られていたし…。」
「それより酷かったわよ。ダークエルフ扱いだったんだから。でも、お兄ちゃんだって、実力をちゃんと評価されなかったし、あのクソ女~。」
「ミアって、サシを寝取ったとか言ってたけど、どうやったの?具体的にさ?」
ボカが興味津々といった顔で質問した。そんなことはどうでもいいといった調子で。カーマもスージィも、同様な表情だった。
「あれは魔王を、あ、魔獣だよね、を倒しての戦勝会、仲間内のささやかなやつだったけど、の終わった後、お兄ちゃんを引っ張って行って…。」
「そして、暗がりに連れて行かれて、無理矢理押し倒されたんだよ。」
「大体、愛しい妹に素っ気ない態度を取っていたお兄ちゃんが悪い。私なんか、一目でお兄ちゃんだと分かって、天にも昇るくらいの気持だったんだから。」
「俺だって同じだったよ。でも、前世でも兄妹なんだから‥、それにだな、あの時はだな‥。」
「フン。あの女がいたからでしょう?お兄ちゃんの浮気者~!」
「お前とは再会できるとは思わなかったからで‥、一応、幼なじみだったし‥。」
「フンだ。二股がけで、内通していたじゃない!」
ライバルといえた、他の勇者パーティーの襲撃を受けたのだが、手引きした者の1人だったのだ、サシの彼女、幼なじみは。2人が、部屋にいなかった、誰も居場所を知らなかったことが幸いとなった。結ばれた後、即座に2人は逃げることにしたのである。
「淫乱、尻軽、欲張り、馬鹿女だったんだから。でも、お兄ちゃんは欲がなさ過ぎたから‥、そこもいいところなんだけどさ。私は、知ってるんだけどさ。」
「本当に、人間も大変だな。」
甘えるようにすり寄るミアを、諦めたように、サシは優しく抱きしめた。
「ペアナさん。」
「ん?」
カーマもボカも、ミアに、兄の押したおし方を質問しかねないと慌てたミカエラが、慌わてて、彼女に質問した。
「ここの魔王の実力はどのくらいなんですか?」
「近くのライバル以外は、本当はあまりよく分からないが‥、ここには魔界を通って来たから耳にしている。勢力範囲は、かつての我よりも大きい。本当の実力は知らないが。」
「ここの勇者パンは大丈夫なのか?かなり強い奴らしい。」
「リーダー達3人で闘っても、絶対に勝てないな。」
カユがいつの間にか、会話の中に入って来た。
「なら、少なくとも、屑の俺よりは、強いな。」
「いや、わし達よりも強いだろうな。なあ?」
「ああ、そうだな。大丈夫そうだな。」
その時、リーダーのチーク達が帰ってきた。
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