第14話 戦闘は続く

「しぶとい奴だ。」

 勇者ボルは焦っていた。相手の勇者ミアが手強いことではない。彼の大剣を彼女は、両手の短剣でよくしのぎながら、素早い魔法攻撃をかけてくる。それを弾き飛ばしながら、強力な一撃をかける。それが一進一退。しかし、それは予想していた。彼女のチーム、5人を一気に蹴散らし、彼に加勢又は5人を人質にしてミアの戦意を殺ぐ、又は屈服させるつもりで、そのために選んだ5人である、かなりの実力の持ち主を選んだ。それが、鎧袖一触のはずなのが、逆に押され気味だった。“こいつら、いや3人が別格に強い!”他の3人の勇者達、シチ達も苦戦しているのが目に入った。さらに、半数以上の戦士がチーク達に抑え込まれて、押され気味である。チーク3兄姉妹、イーク兄妹、ゴウ異母兄妹の奮戦、カユとミカエル達3人の逃げ回りながらの攻撃、陽動に翻弄されていた。更に、ミカエル達が石弓を放って、器用に隙を見て、攻撃魔法を放って牽制するため、勇者対決に加わるべき戦士達が本来の戦いに集中出来なかった。

「シチ!予備隊の連中を投入させろ!」

「分かった!」

 光が上がった。20人以上の戦士、ちょうど100名を超えた人数である。

「お前らもこれで終わりだ!」

 自慢の重大剣を、軽く受け止めたペアナに悪態をついた。

「自分の心配をしたらどうだ?」

 彼女は、その大剣を軽く押し返した。

「すまん。少し時間がかかったが、終わったよ。」

 ハーンが相手の後ろに立っていた。

「馬鹿な?勇者ではない奴に遅れをとる奴らでないはず。」

「悪いな。一応、俺も勇者なんだよ。」

「何だと!じゃあ、じゃあ、お前は?」

「何に見える?美人の魔王様にでも見えるか?」

「うるさい!」

「爆裂!」

 長い詠唱の後、チーク達に爆裂魔法が襲った。爆炎が収まってからの光景を見て、魔道士は驚いた。相手の誰も倒れていない。

「馬鹿な!」

 それでも、自分の攻撃が効いていないとは思っていなかった。

「かかれ!奴らはボロボロだ!」

 叫びながら振りかえると、かなりの味方が倒れていた。それでも、残った連中は斬り込んでいった。それを、イーク達が迎え撃つ。チークが防御結界を張っていた。それを防御結界を張れるカーマ達がそれを補強した。まともに受けず、受け流して、更にそれを相手側に威力の一部を返したのである。そのチークが片膝をついた。みんなに支援魔法を送って、体力、魔力がつきかけたのである。魔道士の前にカマとボカが飛び込んできた。既に、戦士数人が守るように囲んでいた。

「次はないぞ!」

 ようやく魔力がある程度回復したのか、詠唱を唱え始めた。

「私達も使えるのよ、威力は小さいけど。」

「詠唱無しでね!」

 詠唱を止めて、防御結界をと思ったが間に合わなかった。狭い範囲の爆裂魔法で彼らは地面に倒れた。

「あ、お兄ちゃん!」

「チーク!」

 疲れきったチークが、カユ達を襲った連中に対峙していたがその2人に完全に押されていた。

「弟に何をしてるの!」

「お兄ちゃんを殺させない!」

 チークの前の2人は、1人は叩きのめされ、もう1人も血を噴き出して倒れた。

「ハーレムが仇となったな屑勇者!」

 聖槍使いの女勇者ゲソアが、肩で荒い息をしている相手に勝ちほこったように言った。

「その屑女達を気にかけていなければ、まだ、勝つチャンスがあったろうに。まあ、見捨てなかった態度は褒めてやろう。」

 3人の女達は、大地に倒れて、動けなかった。

「ごめん。」

「今度こそ…。」

「動け!体!」

と声にはならないが、口が動いているのが分かった。周囲に、彼女らを危険にさらす要因がないことを確認してから、

「その屑勇者に、手間をかけすぎだ。こちらに仲間を潜入させた上、其奴も含めて、全員死なせちまったさ。」

 ふらつきかけるのを抑えるので精一杯だった。

「口だけは、まだ、達者だな。」

“もう、時間をかけていられないんだよ。”と、最後の一撃の構えをとった。“これまでだな。やっぱり、屑勇者の破滅フラグからは逃れられなかったか。”

 最後の一撃とばかり動きかけた彼女の動きが一瞬止まった。

「な?」

 その一瞬が、致命的だった。

「うおー!」

 逆袈裟懸けで切り裂いた。血が噴き出した。

「助かった。でも、何が。」

 その理由は直ぐに分かった。

「お兄ちゃんの馬鹿!無理しすぎよ!」

「チーク!自分が死んでしまうぞ!もう止めろ。」

 意識朦朧のチークが、彼の姉妹達に抱きとめられながら、叱責されていた。

“全く、うちのリーダーは困ったもんだな。でも、あいつがリーダーで助かったよ。”カーユは、大楯に身を隠しながら、でかい鉄棒でもって、ミカエル達と共に、今は疲労困憊で動けないリーダーのチークを守りながら、襲ってくる連中を防いでいた。その彼らをカーマとボカの姉妹を守るように、彼らを襲う連中を倒していく。イーク兄妹とゴウ異母兄妹に、相手側は、勇者達に助太刀に行こうにも、チーク達を囲む連中に加勢にも、阻止され、数を次第に減らされていく。

 ボルは、戦っているのは自分1人であると感じたのは、実力もあり、愛した女騎士が、彼の楯になるように割っては入って来て、女勇者に斬り倒された時だった。

「あ~、俺の負けだ~。勝手にしろ!」

 剣を投げ捨てて、地面に座りこんだ。

「あ~、殺せ!」

 死ぬつもりはなかった。切り抜けるための策を講じたつもりだった。“仇討ちのためにも、俺は生き残らなければならないからな。”

「俺は、この世を変えたかったんだよ。そうは思わないか?貴族とか、農民とか、支配する者とされる者がいる世界がおかしいと思わないか?」

 目の前の女勇者が、剣を収めた時、“今だ!”と思い立ち上がりかけた。隠し持った匕首を手にして。

「う、ぐ!」

「分かり易いことを考えるな。これでおしまいだ。」

 背中に鈍い痛みを感じた。そして、腹に痛みを感じた。そして力がはいらなくなっていくのが分かった。

「本当に、俺は、世界を変えたかったのにな。やっぱり夢は夢か。」

“上に、俺は、上に…頂点に登るんだ…。”

 彼は息絶えた。

 

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