第13話 戦闘開始
略奪を止めたいと、各地から志願して参加して来た十数人を含めても相手側の半分以下である。勇者達、魔王も含め、の力量がどの程度か、チーク達3兄姉妹とイーク達兄妹がどれだけ相手を抑えられるか、とカユは見た。自分やミカエル達は、その他の足止めをどれだけ出来るかだが、同数程度が精一杯かもしれない。
「とにかく、相手に弓の勇者がいなくて、女勇者さんが、エルフで弓が得意だから、前哨戦はもらったな。意外にリーダー達も得意だったから、大勝だなこれは。」
前哨戦は、当然のことというか、飛び道具、つまり弓矢の応酬から始まった。相手は、30人こちらは10人だったが、相手は弓の名手といえる者は2人程度だった。
ミヤの弓は格段の強さ、正確さ、素早い連射だったが、ボカののそれもかなりのものだった。女性としては大きな方だが、その、どちらかというと細身の彼女がでかい大弓を楽々と引き絞る姿は信じられないくらいだった。チークの大弓の速射は、ボカを上回った。カユは後で知ったのだが、ボカは速射は、兄を上回ることが出来たが、威力がかなり落ちて、兄以下になるためだった。カーマは、威力ではボカを上回ったが、速射がかなり落ちた。ミカエル、クロ、シロが石弓で参加した。あとは、別に加わった戦士達だったが、まあなかなかやると謂うくらいの水準だった。矢を放てばいいというものではない。相手の矢を逃れながらやらねばならない。ミヤ、ボカ、チーク、カマ、ミカエル、クロ、シロは、それも心得ていた。カユは、鉄の大盾を取り出し相手の矢を止めた。彼だから持って運べる代物だった。
矢合戦は、矢数でも威力でも、大きく上回った。初戦が完敗になりかけていると見たボルは、自ら先頭になって斬り込んできた。
それと同時に、火球、雷電球、氷剣などの魔法攻撃が来た。矢合戦の際に同時にするかで迷ったが、双方とも温存を選んでいた。魔法攻撃を、最小限の力の防御結界で受け流し、迎え撃った。チーク達も大弓などを棄てて、剣を抜いた。両者入り乱れての戦いとなった。チークの側は、勇者ミーアのチームは一体で、スティ等の勇者達には、そのパートナー達と他の参加者達で固め、チーク兄姉妹、イーク兄妹、ゴウ・ターミア異母兄妹は、遊軍のように、勇者達の支援や撹乱など受け持った。カユはミカエル達3人とともに、一見逃げながらも、相手を苛立たせるような攻撃を行った。
「しぶといな。」
ボカと斬り結んでいた剣士が、割り込むようにボカに斬りつけた仲間が、逆に斬り倒されたのを見て、何を思ったのか、おのれの得物を遠くに投げ捨てた。それを一瞥してから、一気に駆け、ボカは相手を斬った。が、手応えがない。単なる残像と衣服と鎧だった。そして、無造作に、振りかえって、飛んできた手裏剣を剣で叩き落とした。
「何で分かった。」
かなり離れた所に、その男は半裸の姿で叫んだ。
彼女はそれを無視して、少し離れている所で、兄を囲んでいる3人の1人に、斬撃魔法を放った。
「引っかかったのはあんたよ。」
「何!うぐ!なんだ?」
うめき声をあげ、その原因が分からない相手を見て、素早く動いた彼女は、彼を切り裂いた。男の背中には、小柄が突き刺さっていた。
「本当に、馬~鹿。あんなよくある手、ちゃんと気を付けて見てれば通じないのよ!まともにやっていたら、勝てる可能性が少しはあったのにね。あ、それからお兄ちゃんは、ちゃんと見ていてくれるのよ?どう?お兄ちゃんの私への愛の詰まった小柄は?」
妖しく彼女は微笑んだ。
「この馬鹿力女!」
2メートル以上のオーガを投げ飛ばして止めを差したカーマを見て男が罵声を浴びせた。
「あら、さっきまでは殺すに惜しい美人だって言ってくれていたじゃないの?あれは嘘だったの?まあ、あんたに好かれても嬉しくも何ともないけど。」
からかうように、彼女が返すと、憤怒の形相が一層厳しくなった。
「お前のような脳筋女には、これがきくんだ。」
懐から、小さな布の小片の塊を取り出して空中に放った。それは小さな鳥になり、彼を覆い隠し、その後、カーマを襲い始めた。
「フン。」
彼女は群がる鳥を無視して素早く動いた。
「ぐ!何で、場所が分かった?」
男の胸を、カーマの拳が貫いていた。
「よくある手よね、あなたの手元なんか見てなかったのよ。それにね、弟があなたのいる場所に印をつけてくれていたのよ。でも、こんな汚い血をつけたら、弟を抱きしめられないじゃない!」
彼女の馬鹿にするような、そして、美しい顔を、彼は見ることは出来なかった。
チークの周囲には、多数のナイフが飛び交っていた。それを、チークが、次々と叩き落としているのを、含み笑いしていた女が、勝利を確信した笑みを浮かべたが、鈍い痛みを感じて表情を一変させた。痛みを感じる所に手を持っていくと、血がべったりついていた。
“馬鹿な。ナイフが突き刺さるのは、やつの方なのに。”
チークは全てのナイフが地面に落ちたのを確認して、
「こういう時は、あらぬ方向から来るやつ、他のナイフに隠れて来る奴に注意するのが常識だよ。」
それに隠れるように、彼女の注意が必殺のナイフの動きに向いていた隙をついて飛んできた、彼の小柄、2本が突き刺さったのだ。
「うわ!」
離れた所から、詠唱を唱えようとしたエルフが炎に包まれて倒れた。彼の放っていた魔法の罠にはまったのだ。
「どいつもこいつも、全く、思った通りの動きをしてくれるよ。」
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