第11話 困った依頼が

 ターミアは、王女としてのかつての生活を、過去のこととわりきっているような口ぶりで、実際半ばはそうなのだが、時折、発作のように、かつての優雅な生活を思い出して、やるせない気持に襲われる。同時に、ゴウを自分のために犠牲にしたという罪悪感にかられる。ゴウもそれは同じだった。それが際限がない繰り言から、言い合い、殴り合いになって、最後は涙を流し、唇を重ねて抱き合うのである。

「スティも同じことを言っていたな。まあ、取り敢えず、金を貯めて荘園なりを買って、小領主になることを目指して、その未来を楽しむことにしたらどうだ?まあ、それがかなったら失望するだろうから、根本的な解決にはならないだろうが、その時はその時に、また考えればいいさ。スティにも、そう言ったよ。」

 ビールをグイと飲んでから、大声で笑った。それでも、人生経験が自分よりあるだろうカユの言葉に少し気が楽になった。礼でも言おうかと思っていると、

「あ、リーダー。」

 チークはカユを見ると、

「困った依頼がきたよ。」

 彼の後ろから、彼の姉妹、イク、スージィーが入ってきた。

「困った依頼がきたよ。まあ、湯屋に行って体をまず洗いたいから、詳しい話しは後で、みんなが集まってからするが。」

 彼も、肉体労働の順番に入っていたので、かなり汚れていた。

「そうなんだ。勇者同士の争いに介入することになるわけなんだ。本来なら断りたいんだけど。」

 食事が終わり、食堂を貸切状態にして飲み客を排除して、宿の家族も出てもらって、話し合いが始まっていた。

 チークが、う~ん、とうなり声をあげながら、腕を組んで難しい顔をした。

 勇者は聖サーバカン帝国と周辺地域では、パン1人である。パン1人だけが認定されているのである。認定される勇者は1人なのである。特権と聖剣などを与える関係上、そういうことになっている。そういうのは、他の地域でも同様な場合が多いようである。3人の勇者と勇者殺し1人の話からすると。だから、この仕事に出てくる勇者とは、他の地域から流れてきた勇者、元勇者か自称勇者ということになる。

「傭兵団か。厄介だな。」

 チーク達は傭兵といっても、どちらかと言うと、市の職業ギルドに属さないなんでもかんでも屋である。治安上登録をして、仕事の依頼、報酬の支払いなどを市が仲介してくれる。彼らが市にとって必要な仕事をしてくれるからでもあるし、彼らの仕事の多くは、そうした仕事で、他人がやらないことだった。傭兵団になると、数が数百人以上の規模になり、大抵都市、国などと契約して、そのために戦う。戦争、それに類するものがその仕事である。長期間の契約となる。傭兵団に所属していても、仕事がない場合はチーク達と同様に仕事を受けるし、団の縮小、解散も多い。その場合の元傭兵団の面々はチーク達のような便利屋的傭兵になる。同様に増員、創設も多いので、昨日までチーク達と同様な便利屋的傭兵が団に加入することも多い。

 そして、契約主との間でトラブルが、これまた多い。その中で、支払額の場合が多い。正にそれが発端だった。チーク達が拠点としているミソカン市から行程一日余りの所にあるヅケ市は、銀行業、手工業が盛んで、かつ交通の要衝である。そのため豊かであるため、魔族や野盗、他の都市、領主、他国からの侵攻などに備えて、市民兵なりを組織するより、傭兵団を雇うことにした。随分前からのことであり、少し前までは上手くいっていた。それが不況での財政不足やこのところ魔族の侵攻などはないことから、支払いを契約に定める額より少なくすべきだという声が強まった。本当は、危ぶむ声の方が多かったが、声の強い方が押し切ったのである。案の定、傭兵団は反発、交渉は決裂。傭兵団側は、強制徴収のため、略奪を行うと通告してきた。彼らの略奪は、不足金額だけなどというものではない。ヅケ市だけでなく周辺地域も行うと言うので、領主の1人が調停に乗りだした。その際、たまたま他国から流れてきた勇者が協力して話し合いを進めた。九分通り話しは、まとまりかけた。が、その時、別の他国の勇者が、傭兵団側に来て、それを打ち壊してしまった。そして、決着を勇者とそのチーム同士の戦いで行おうと言ってきたのだ。傭兵団側の勇者のパーティーは60~70人以上なのに対して、領主側の勇者のパーティーは6人。それで、2週間で期限を切って、加勢を集めることが認められたが、その代わり100人まで参加者を増やせる、各領主の家臣は不可となった。応じなければ略奪又は傭兵団側の法外な要求を認めると言うのだ。

「傭兵団は元々500人くらいだったが、略奪が出来るということで、それを目当てに次々集まって来て、1000名を超えているらしい。さらに増えそうらしい。略奪の範囲も、ここら辺まで拡がりかねないということだ。仕事は、ハモン伯爵のところにいる勇者に加勢することだが、傭兵団の勇者は100名は集めるだろう。腕のたつ戦士は選び放題だろう。ハモン伯爵の所の勇者は、我々以外、加勢するのがどれだけいるかどうかだが、心許ないな。」

 元勇者達も、普通の兵士だけなら自信はあるが、剣聖とかがかなりいるが、それが何人いるのかとなると分からないという顔だった、チークは。

「でも、あくまでも試合でしょう?」

 スーが期待半ばで口をだした。すかさず、隣のヤクスが、

「殺しあいになるな。」

「領主様達が黙っていないのでは?」

 イーカが、やはり期待半ばに質問した。カーユが首を横に振り、

「あいつらは、そうならないように略奪するんだよ。ハモン伯爵は別として、他の領主は見て見ぬふりをするだろうな。」

 それから、チークを見て、

「リーダーの考えはどうなんだい?俺はそれに従うが。」

 カーユが、皆を見まわすと大部分は頷いた。集まった視線に、苦しそうな表情になった。両脇からは“私達は大丈夫。”という目をしていた。チークは、搾り出すように

「俺は。」



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