第10話 王女様と魔王様という仕事は過酷なので

「2人とも、王女様って感じが、やっぱりあって、私達と違うなって思うけど、もういいの?」

 女達が帰ってきて夕食となったが、その最中、ボカが訊ねた。

「もう吹っ切れました。」

「同じですわ。今思うと、あなた方から見れば、酷い奴だと思われても仕方がないこともしましたから。」

「それは、私も。自分が怖いくらいです。」

「権力の中にいるということは、そうならざるを得ないのだ、人間も魔族も。」

 元女ですよ魔王が、2人を弁護するように、しんみりとして言った。

 彼女らの未練も心配だったが、その心配はないようだな、とチークは少し安堵した。

「でもさ、魔王様は、うちらのダンナに屑勇者と言ったけど、魔王様のダンナも同じじゃない?ねえ?」

 2人は頷いたが、他は素知らぬ顔をした。

「こいつは、自分のことを屑勇者とは言わなかったぞ。」

と彼女は、当然という顔で答えた。

「それは確かにそうだけど。」

 それは、当人が笑い出したので終わった。 

「まあ、お二人には王女様の気品がありますからね。」

 チークは、すぐに自分が口に出した言葉に、不味い、と感じた。

「どうせ、私達は田舎のブス女ですよ。」

 両脇の姉と妹がぶすっとして、腕をつねった。それに耐えながら、“これも既視感が。”と思った。あれは、勇者パンが、パーティーに入りたいと訪れた時のことだ。彼と共にいた3人の女達は、皆それぞれの国の王族だったから、パーティーの女達とは、違う雰囲気があると、つい見惚れてしまった。その時も同じように、やはりカーマとボカにつねられた。

「何言ってるんだよ。俺は、姉さんやボカが一番の美人に思っているよ。」

と言って抱きしめた。

 それでその場を収めたが、カユ、ミカエラ、シロ、クロだけ呼んで、

「外では、元王女様方の噂の類いに聴き耳をたてて置いてくれよ。」

と頼んだ。

「やはり、面倒ことが心配かい、リーダーさんよ?」

「そうなんだ。彼女らは、恨まれてもいたようだからな。」

 彼女達も認めていたし、ゴウ、スティも言っていた。

「立場が悪くなると人は離れるが、良くない連中や野心のある連中が近づいてくる。リスク・ハイリターン的な感覚で。そいつらの知恵で、謀略もやったな。地の果てまでも、復讐したいと思っている奴もいるかも。」

「俺は、そこの事情は余りわからないが、そういう噂は聴いたことらあるな。」

「もちろん、それは一面だぜ。誰もが、王族はそういうことをやっていることなんだ。やらなければやられる。それに、彼女は、優しい王女様の面の方が大きかったよ。」

「彼女だってそうさ。俺の見た彼女は、悪党からはほど遠かったよ。それに頼りになるところがあったな。」

 必死に弁護をしはじめたので、

「庶民だって、財産争いをしたり、色々なところで、互いの足をすくったりしているんだからな。」

 チークは、それで、何とかその場を終わらせた。

 それを理由に彼らを拒みたくはないが、用心はしておきたかった。

「ああ、分かったよ。遠路はるばる敵討ちなんていう話しや物語は聞いたことがあるからな。」

 カユが一応納得したし、ミカエラ達も大きく頷いたので、彼らに任せることにした。

 新しく加入した面々も、同じ安宿に住むことになった。部屋は空いていたし、宿としてもありがたかったし、彼らも家があるわけではないので、そういうことになった。

「うちのチームの方針は、どんな仕事も受けるということだ。もちろん、犯罪まがいや人に迷惑をかけることを除いてだが。あ、あと無理な仕事は受けないし、あぶなかったら逃げて帰る、だから。」

 元々、都市定住の正式な仕事を持った住民とは異なり、彼らは何でも屋である。ただ、一流とされるパーティーは、実力に見合った仕事、報酬にこだわることが多いが。

 元王女様のキア、ターミアも、元魔王のペアナ、元王子のゴウも、安い、肉体労働としか言えない仕事も不平も言わずにはげんでてくれた。

 スー、イーカ、スキアは、細々とした仕事が上手く、戦力としては後方を任せられる程度には十分だったし、サポーター等としてカユの補助にもなった。

 人手不足の中で、どんな仕事もこなす彼らは、商売繁盛と言うところだった。割のいい、報酬が多い仕事や全員動員という仕事がいつもいつもあるわけではない。魔獣狩りやゴブリン等との戦いといった戦士、傭兵らしい仕事というのも、何時もあるわけではない。そのため、交代で、市内の肉体労働から戦闘までの仕事をしていた。

「おう。ゴウ。帰ったか。」

 カユは、ゴウに声をかけた。

「ああ。でも、すぐ、ターミアと湯屋に行くよ。」

 2人の今日の仕事は、体を少しでも早く洗いたくなるものだったから、当然な言葉だった。 

「仲の良いことはいいことだが、…仲直りできたのか?」

 右目の周囲が黒くなっているゴウをからかうように言った。

「まあ、あの後の声とあの音で、仲直りしたのは、すぐ分かったがね。」

 困ったような顔のゴウは何も言えなかったのでカユはさらに、

「余り激しく、仲良くしないでくれるか?リーダー達には刺激が強すぎるからよ。」

 溜息をついたゴウは、聞かれないことを言い出した。

「時々あるんだよ。」

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