第8話 屑勇者はざまあされて、めでたし、めでたし

「それで…。」

 カーマとボカと魔王がジト目になって、屑勇者こと、ヤクスを見た。

「違う、違う。そんなことをしていないよ、その時点では。まあ結局は…。それは、まあ…。俺にだって恋人がいたんだよ。」

「ほ~。」

とカーマ以下3人。

「魔族の女だったのよね。」

と残ったスー。

「如何して分からなかったのかしらね。」

は逃げたイーカ。

「臭いかなんかで分からなかったのか、と思う‥。」

 ちびったスキアが吐き捨てるように言った。これを聞いて、魔王は、ペヤナは、不快そうな顔をしたが、勇者、ハーンが、“臭くなんかなかったよ”というように首を振ったので、何も言わなかった。

「だって、美人で、頼りになって、優しかったから…。」

「その‥だ、前世の記憶、物語には、その女はいなかったのか?」

 チークの質問に、ヤクスは顔をしかめて、

「いたよ。名前も、姿も、正に彼女そのものだったよ。」

「なら…。」

「信じたくなかったんだ。この点は、違うんだと思ったんだ。心が通じ合っていると感じたんだ。いろいろ考え、そう結論したんだ。でも、後で考えてみれば、都合のよいことばかり見て、本当のところを、全て目をつぶっていたんだ。」

 大きな仕事、魔族の一団との戦いだった。

「いるのだ、各地の勇者の首を取って、仕官や賞金稼ぎをしようと考えている奴らが。」

 魔王ペヤナがボソッと言った。

「そうなのか。」

 彼女はその時裏切った、絶妙なタイミングで。しかし、彼は生き残った。パーティーの半ばが死んだが、3人の女は生き残る側に残った。彼は奮戦して全ての魔族を殺した、その中にはその恋人も含まれていた、何とか勝利を得た。

「あいつ、微笑んで死んでいったよ。どういうつもりだったかわからないが。」

が、生き残りのパーティーメンバーから非難を受けたし、彼の評判はガタ落ちになった。残ったのは、行くところがなかった3人の女だけだった、他のメンバーは愛想を尽かしたという風に出て行ってしまった。

「あの3人は如何したんだ?あんたのお陰で覚醒できたわけだから、手を差し伸べて…。」

「君らなら、そうするかい?彼らは、自分の居場所を得て成功したわけだし、俺がやったことと言えば大したことじゃないし、形の上では、追放したわけだし‥。」

 彼等らには、偶然出会った。3人を連れて、仕事をし続けている旅の中で。ほとんど1人では、やはりきつい、大きい仕事を、何とかやり遂げていたが、ぼろぼろだった。再会時の態度は、当人は罵倒などはしなかったが、一緒にいた女達からは厳しい言葉を浴びせかけられた。

「彼女達の弁護はしたが…。」

「残念だけど、ハーレム野郎に見えるものね。」

 ボカの指摘に流石に嫌な顔をしたが、

「そうだな。」

とあっさり認めた。あの3人も、かつての思い人が寝取られたと思って、不快に思っても当然だったろう、それが既に拒絶した女であってもだ。

「たしかに、私も彼女が帰って来ても、受け入れなれないだろうな。」

 チークが、溜息をつきながら認めた。すると、両脇から、

「大丈夫。私達がいるわよ。」

「そうよ!姉さんと一緒に追い返すから。」

 彼らの周囲の女達も、彼の姉妹同様だったろうなとヤクスは思った、困った顔のチークを見ながら。

 彼女達も謝罪したが、受け入れられなかった。彼らの周りの女達は、苦しい時にともにいて助けてくれた、ともに戦い続けた仲間であり、かれの能力を理解し、覚醒させた恩人である。それだけで、3人とは比べようがなかった。その上、美しさのレベルが違った。所詮、村一番の美人程度の彼女達と、本当は美人の等級などは存在しない、蓼食う虫も好き好きではあるが、それでも違う美人達だった。彼らは、そうした彼女達の中で、違和感のない存在価値になっていた。3人の入り込む余地などはなかったのだ。彼にはそう見えた。

 彼らの名声が高まるのと、逆比例して、ヤクスの評判は地を這うようになり、あることないことを交えた悪評が広まった。それもあって、国を去って、ここまで流れてきた。3人には、自分のパーティーから去るように言ったが、彼女達も去るに去れない状態になっていた。

「彼らに、助けを求めるなり考えてみたよ。でもさ、彼らも助ける義務はないし、いろいろある。多分、俺は逆恨みのように逆上するか、闇落ちして、彼らの手で殺されることになりそうな感じがしたんだよ。まさに、バッドエンドの物語のように。」

 没落し、ざまあされるようになっている、どんな努力しても、と彼は言った。没落して、逃げて、惨めに生きていくことで、自分に与えられた運命に従いつつ、運命を変えることを選んだ。そして、3人と結ばれることになった。宿を断られ、金が払えなかったのではなくだ、嘲笑を背に町を出て、野宿した、満天の星空の下で。彼の上で、彼から後ろから腰をつかまれ、彼の下で、喘ぎながら、自分の運命に涙を流し、罵り、激しく動き、何度も果てた。

「彼しかない、もう、と思ったの。供に地獄までと。」

 3人と誰かが言った。残りの2人が頷いた。

「彼はさ、前世の物語と同じだって言ったけど、あなた方の運命も分かっていたということでしょう?聞いてみたことあるの?」

 カーマが、女だけになった時に訊ねた。仕事が一日で終わり、野宿して、明日確認をした上で、カーユ達と近くの町の宿で合流する予定になっていた。一応、男女が分かれた。

「最近聞いたわ。」

「悲惨の一言。」

「でも、彼の言葉を信じられる?」

 前世とか、前世で読んだ物語だとか、カーマ達は信じられなかった。

「分からないわ。でも。」

「それに近いことになったと思うわ。今の方がずっとまし…だと思うわ。」

 他の2人も頷いた。カーマ達も、それには同意せざるを得なかった。

 

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