第7話 屑勇者は奮闘努力の甲斐もなく

「流石に屑でも勇者は勇者だな、なかなかやるではないか。」

 銀髪のハイエルフに見える魔王が、コボクルの一掃という仕事を全て片づけた後、少しからかうように言うと、屑勇者のパーティーの女達が、

「ちょっと、彼のことを屑と言わないでよ!」

「彼は屑なんかじゃないわよ。」

「話を聞いていたの?」 

と反論した。

「しかしのを、当人が屑勇者と名乗ったのでな。」

 なおも言う魔王を睨みつける女達の間に、魔王の連れ添いの勇者が間にたって、

「まあ、彼女は、彼女なりの言い方で、彼の実力を高く評価しているんだよ。」

「いいですよ。屑なんですよ、僕は。」

 “も~う”という顔の女性達を見て、チークも加わった。

「勇者お2人も魔王も、大した実力で驚きましたよ。」

「いや、リーダーと姉上、妹さんも凄いですよ。3人相手だと私も敵わないかもしれません。それに戦闘力以外の貢献度も含めれば、チームへの貢献度は、3人とも私より上かもしれませんよ。」

「それには賛成だね。」

「我も、そうだ…ということにしておこう。」

 脇でカーマとボカが、女性達を宥めていた。

 結局、残ったパーティーは、全部仮入会ということにして、一緒に仕事をしてみて実力を確認してから正式に入会を認めようということになった。イーク兄妹以外は名前すら初めて知った面々で、勇者と言っても、自称であって本当のことは分からないからだ。

 チークは姉と妹とともに、屑勇者とその“ハーレム”と魔王&勇者、そして新サポーターを連れてコボルトの群れの一掃の仕事を担当した。カーユ、ミカエラ、クロ、シロは、イーク・スージアとともに残りの仮メンバーを連れてトロールの一団の退治に向かった。どちらも、勇者の魔王討伐の旅に伴って生じた変動、混乱から魔界の種が混入し、手薄な地域に大挙して移動してきた連中であった。

 コボルトの群れは100匹以上という依頼先からの情報よりかなり多く、巨大な変異種や魔法も使える種がかなりおり、統率が取れた上、小型魔獣ファイヤーウルフの群れも従わせていた。しかし、魔王&勇者、屑勇者は流石に強く、仕事は難なく終わった。チークは、彼らに

「本メンバーとして入会を認めないわけにはいかないな。」

と言った。

「でも、彼とでいいの?」

 ボカは、3人のハーレムメンバーに、こっそり訊ねた。

「彼が受け入れてくれたわけだし…。」

「見捨てなかったのは彼だけだし…。」

「助けてもらったのは私達…。」

 複雑な表情で3人は答えた。

「はあ?転生者?前世での物語で屑勇者だった?」

 頭が混乱してきている中で、さらに分からなくなった。にわかに信じられなかったチークだったが、姉のカーマもベテランサポーターのカーユまで、口をポカーンと開けて思考停止になっているので、自分がしっかり聞くしかないと観念した。

「続けてくれ。」

 彼が勇者認定され、パーティーを組んで旅に出た直後、転生前の前世の記憶を思い出した。彼の故郷は魔王の驚異などはなかったが、魔獣の侵入も多く、また各地に魔獣が数多く棲息しているし、魔族の野盗等の侵入も多いため、勇者の旅は、それらの退治が主目的となっていた、

 彼はその記憶から、パーティーメンバーの名前、外見、経歴、権能、能力、恋人の名前、外見等から、彼が自分が読んだ物語の主人公で、自分は彼を無能力者呼ばわりして追放、恋人を寝取って、その後、自らは没落し、能力に覚醒し、聖具を手に入れ、真の恋人達も含めた最強メンバーとパーティーを組んだ主人公にざまあされる運命で、最後は逆恨みして、闇に落ちて、主人公に復讐しようとして、呆気なく返り討ちになることに気づいたのである。困ったことに、その主人公がパーティーに3人いたのだ。精霊使い、大楯を持つ剣聖、賢者だった。別々の異なる物語が一つになっているのだと考えた、彼は。まずは、屑ではないようにしっかり励んだ。しかし、3人の主人公達をどうしたものかと考えた。追放する時期になり、それを主張する他のメンバーの意見もあった。それに、彼らの能力を目覚めさせないというのは、本当の屑のやることだと思われた。考えだ挙げ句、よくよく“君には凄い能力がある。僕には分かる。ここは一旦パーティーを出て、1人で旅をした方がいい。きっと君は、凄い能力を得るんだ。そして、私をまだ友だと思っていたら、助けてほしい。”と説明して、一応追放ということで出ていってもらった。その恋人達を寝取るなんてとんでもないことはしなかった。だが、そこからが全てが上手く行かなくなった。

「私は彼女達にも説明したんだ。そして、一緒に行った方がいいとも言ったんだ。それで2人はついていったんだが、1人が残ってしまったんだ。」

「だって足手まといになると悪いと思ったし。」

 危ないのは怖かったし、半信半疑だったので、勇者のそばにいた方が安全だし、勇者を…で優位にたてるとも計算したからだ。それに、絶対彼は自分のところに帰ってきて、無事を喜んでくれると、根拠のない思いがあったからである。

 2人はついていった。が、1人は危険な目にあった途端、逃げ出して、帰ってきた。腰を抜かして、小便を漏らしても付き従っていた1人も居づらくなって帰ってきた。ちなみに、残っていた1人は、不安を感じて出ていったが、再会した、かつての恋人と見知らぬ彼の仲間達の中で、居たたまれなかったので早々に帰ってきてしまった。


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