第5話 勇者、くず勇者、、勇者を裏切った…
「えっと~、勇者は勘弁して欲しい…てか、何で4人も勇者がいるんだ?」
残った四組、カーユが知らないという、をまとめて話を聞いて、チークは驚きの声をあげてしまった。すると、1人がおずおずと手をあげて、
「いや、俺は勇者じゃなくて、裏切った方で…。」
それを皮切りに、次々と言い立てが始まってしまった。
「あ、俺はくず勇者だから、魔王退治なんかしないから。」
「もう魔王を倒して…逃げているから、ここで魔王打倒の旅なんか始めないよ。」
「俺は、魔王と逃げているから、あらためてここで魔王討伐なんかしないから、安心して欲しい。」
「一寸待ってくれ。何が何だか。なんか変なことも聞こえたような気もするが…。まず、勇者が何人もいて、魔王も何人もいる?」
チークは、姉妹に、従者達に助けを求めるように顔を向けたが、こちらも唖然としていた。これでは助けに成らないと思い、カーユを見た。しかし、彼も驚いているようで、どうしたものかと暗澹な気持ちになりかけたところで、ようやくカーユが声をかけてきた。
「俺も聞いただけなんだが、辺境でな、遠くから来たパーティーのサポーターと話しをした時にな、『え?魔王は退治されて、平和になってるぞ。俺のところは、違うって?。』とか『え?勇者は、死んだはずだぞ。』とかいうような話になることが何度かあったんだ。今、あらためて考えて見ると、この広い世界、いたるところに、魔王がいて、勇者様が出るのかもな。」
その言葉に、チークは少し落ち着くことが出来た。
「僕の知らないところで、別の魔王がいて、パン以外の勇者様がいるわけなのか。じゃあ、君達は遠くから来たわけか。カーユでも知らないわけだ、まして僕なんかは名前すら知らなくても当然なわけだ。」
チークは、自分の頭を整理するために口に出した。しかし、それに姉妹達一同も大きく頷いた。カーユも頷いた。
「じゃあ、1人づつ説明してもらおうか。え~とー、ああ、勇者を殺したという物騒な話しをした君から話しを聞こうか。」
視線が、集まった若者は傍らの女魔法使いを見た。彼女が頷くと、説明を始めた。
東方の島国オーディン、剣士風のゴウと魔法使い風の女性ターミアの母国があった。大小様々な国があるのだが、南方から魔王の侵攻があり、協力して対抗していた。苦しい戦いの中勇者が現れた。各国の神官が集まった会議で認定を受けた勇者に各国は期待と、惜しみない支援を与えた。苦しい戦いはあったが、勇者は、魔王城に突入し魔王を打ちたおした。
魔王を倒し、待っていた仲間の元に姿を現した勇者を、安堵と喜びに満ちた顔で出迎えたチクワーブ帝国皇女を、彼は手荒くはねつけた。地面に倒れ、何故だか分からないという顔の彼女だったが、その勇者と共に、彼女の臣下が彼女を見下ろしていた、彼女を助け起こすこともなく。
「何なの?どうしたの?」
勝ち気で、気の強い彼女が、不安そうな、怯えたような表情を見せた。それに、誰も心は動かないようだった。
「血に塗られた、権力欲に取り憑かれた悪しき皇女。俺を利用するつもりだったらしいが、そうはいかない。ここで死んでもらう。今まで、お前が命を奪った者達に詫びながら。」
彼は怒りをこめながら、冷酷な口調だった。その目も、汚い虫を見るような感じだった。
「違う!あなた方、分かっているはずです、私がそんなんじゃないことを。何とか言いなさい!」
彼女のために、弁護の言葉を口にしようという者は現れなかった。
「ひ!」
反射的に身を引いて逃げようとした彼女だったが、恐怖のために身がすくみ、動きが鈍かった。直ぐに、皆に捕まって、押さえつけられてしまった。
「助けて!お願い!」
弱々しく、手を伸ばして勇者に、彼の恋人と共に寄り添うように立つ巫女に救いを求めるように、声を絞り出した。彼女は、子供の頃からずっとそばに仕えて、彼女の傍にいた。信頼し、目をかけてきた、…はずだった。しかし、彼女は顔を歪めて笑い、
「そうね。長い付き合いだったわね。慈悲をかけてあげるわ。」
さらに、彼女の表情は歪んだ。
「死ぬ前に、その淫乱皇女に、たっぷり女の喜びを教えてあげなさい。」
彼女を押さえつけていた男女は、先を争って彼女の身に着けているものを剥ぎ取り、彼女の体を弄びだした。
「ひ!やめ…。」
その光景を見ながら、巫女は、
「あなたが、最初から嫌いだったのよ。気に食わなかったのよ。どれだけ、私があんたのことを恨んでいたか…。」
そして、気持ちを落ちつかせるように、大きく深呼吸してから、
「勇者様方、あの女に最後の別れをしてあげては?」
と言って、勇者の方を見た。勇者は、小さなうめき声を出して、前のめりになって、両膝をついてうずくまった。
「何が?」
巫女も、勇者の恋人も驚いて勇者に駆けよった。その巫女の見ている間に、女の顔が横に切断された。顔の半分が地面に落ち、少し遅れて彼女の体が斜めに倒れた、血を噴き出して。恐怖に身を震わせながら、後方を見た。
「お前は…皇子さ、ま…何故?」
彼の振るう槍が横殴りに迫ってきているのが見えた。彼女の顔も切断された。
「魔槍を拾ってきておいて良かったよ。」
血塗られた槍を持った若者は、間髪を入れずに、皇女に群がる男女に襲いかかった。彼らは、その時にいたっても、事態を把握していなかった。半裸の、武器を手にしていなかった彼らは、瞬く間に魔槍で突き刺され、叩き斬られて死んでいった。1人だけ、何とか飛び出した女魔法使いがいたが、彼女も逃げられなかった。
「これでも喰らいなさい」
魔法発動させようとしたとき、下方から火球を受けて、
「ギャアー!」
床に倒れたところを、
「お死になさい!この豚女!火で満足できたでしょう、この淫売女!」
皇女が、拾った剣を持って飛び乗って、その剣を突き立てた。そして、何度も何度も突き立てた。
「この、この。私の恩を忘れて、下卑の女!」
その手を誰かが掴んだ。
「ターミア様。早く逃げましょう。」
彼女は振り返った。
「ゴウ兄様。」
ようやく彼女は安堵した。が、直ぐに不安になった。それを見て、
「大丈夫です。私を信じて下さい。」
“信じるしかない。”と自分に言い聞かせた。彼に促されて立ち上がった。その後、ゴウは勇者にとどめをさすように、何度も魔槍を突き刺した。巫女の服を剥ぎ取りターミアに投げ渡し、勇者の聖剣などめぼしいものを漁った後、着替え終わったりターミアの手を引き、そこを出た。その前に、勇者の体を引き摺って、地下に伸びる穴から、奈落に落とした。
「許してくれ。こんなことはしたくなかった。でも、ターミアを殺させるわけにはいかなかったんだ。」
彼を落とす前に、呟いた。
「後は、2人で逃げた。皇帝も了解したことでもあるから、どうしようもなくてね。海を渡り、ここまで来たというわけだよ。」
「しかしだ、どうしてターミア皇女は、暗殺されることなったの?父親である皇帝が了解したと言うくらいなら、かなりの大罪ではないか?それを、あなたは、どうして、彼女を助けたわけ?兄妹のようだけど?」
チークが尋ねた。皆も、同じだという顔だった。ゴウは、大きな溜息をついてから、
「彼女の母親というのは、私の母親とは違うんだが、皇帝の寵愛を一身に受けた妃なんだ。ライバルを蹴落とし、自分に敵対するような人間を陥れた。そうこうして、幼い子供まで殺している。寵愛をいいことにしたい放題をした。と言われているが、全部が全部本当というわけではないんだ。国に尽くした人でもあったが、それでも、自分の地位や娘のターミアのために血生臭いことをしたことは確かだな。私の母親は、身分も低く、寵愛もそれ程でもなく、野心もなかったから、関係は悪くなかったし、早く死んでしまった。そんな皇子の境遇なんかは、衣食住に困らない程度なんだが、彼女の母親に気に入られて色々面倒をみてもらった。数年前、彼女の母親が死んだんだ。寵愛なんて、死んだらお終いだ。それでも、彼女の母親は彼女のために色々やっていたし、父上も彼女のことがなかなか忘れられず、彼女への溺愛は、続いた。しかし、新しく寵愛される妃が出てきた。彼女は自分を守ために、人を陥れることもした。だけどさ、彼女を一方的に非難できることではないんだ。やらねばやられることだったんだ。非難されることばかりしていたわけではないんだ。立派な皇女としての務めも果たしていたんだよ。勇者様に自ら随ったのも、自分の地位を守るためだったが、皇女としての責任感もあったんだ。恩義もあったし、彼女の母親の策の中には私が入っていたかもしれないが、…ずっとそばにいて…好きだった…結婚できる立場ではなかったからな、身分が違いすぎた、ああ、ちなみに私の国では異母兄妹なら結婚できるんだが。色々事情があって、彼女とは疎遠になっていた。そうした事情から、彼女の暗殺計画の情報が入ってきて、私の取り込みのため、婚約の話が彼らの関係筋からあり、それで詳細を知って、駆けつけたわけだが。」
そこまで話したところで、
「君の気持ちは、よくわかるよ!」
と言って立ち上がったのは、魔王を殺したが、逃げていると言った勇者スティだった。
「あの、兄様。」
スージィが、イクの顔を見た。
「僕らは、同じ両親から生まれた兄妹だよ。」
「わ、分かっているわよ。」
イクが溜息をついて指摘したことに、不満混じりにスージィは同意した。
「あんた、何を考えているかなあ~?」
「姉さんこそ~。」
カーマとボカ姉妹が睨み合った。
「三人の母上が、同じだってことは僕達がよく知っているよ。」
シロが言うと、クロとミカエラが大きく頷き、
「それに私達の国は異母姉弟妹だってダメなんだから。」
ミカエラが付け加えた。
「分かっているわよ。」
カーマとボカが声を合わせて言った。
「それで、勇者様達のことなんだが。」
チークがあらためて問いかけた。
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