第3話 ブラコン、シスコン

 チークは目を覚ました。自分がどういう状態にあるか判断出来るまで、しばらく時間がかかった。“倒れたんだな。何時まで寝ていたんだろうか?”久しぶりに、頭がすっきりとしているところを見ると、8時間は寝たかな、ともかく思った。気がつくと、カーマとボカが彼が寝ているベッドに顔を伏して眠っているのに気がついた。

「看病してくれていたのか。2人も疲れていただろうに。」

 2人のことを、“本当に美人だな。”と思って、この情景を幸せに感じている自分に気がついて、思わず苦笑した。“シスコン男と罵倒されても仕方がないか。”

 彼を安宿の部屋に担ぎ込んで、ベッドに寝かせてから、どちらが看病するかでかなり揉めていた。

「私が看病するから、お姉ちゃんはみんなのところへ行ってよ。仕事のこととか、いろいろあるでしょう。」

「私が看病するわ。仕事も急ぎのものは終わっているし、明日、明後日は休息の予定だったんだから、何もないわよ、やることは。あなたが、みんなにチークの様子を言ってきて。それに、あなたも疲れているでしょう?早く休みなさいよ。」

「それはお姉ちゃんの方でしょう?仕事探しだってあるでしょう?」

 2人が睨み合っているのを、ミカエラが、“あ~あ、いつも通りね”と言う顔で、

「お二人で看病して下さい。みんなには、私から言っておきますから。」

“本当に、休む直前に倒れるなんて、律儀過ぎるんだから。”と3人は、いびきをかいて寝ている彼の顔を見つめた。“いつもこうなんだから…。この彼を捨てて…、あの尻軽、性悪女~。”長年、仕えているミカエラも、その思いは同じだった。

「しかし、あいつは、どうするつもりなんだろう?」

 チークは、自分の元恋人のことを少し心配した。“勇者には、身分の高い、かつ実力のある女達がガッチリ固めているし…誰か他のを…まあ、頭はいいからな。”未練を余り感じることなく、冷静に考えている自分に少し驚いてしまった。“でも、どうしてこんなことになったんだろう?”彼は回想した。

 傭兵稼業の末、小地主になった父と母の下で、3人は、まあ幸福に育った。魔族達の活動が活発化し、彼らの地方にもその波が来た。自警団の中で、魔法、武芸に秀でた3人は頭角を現し、土地が荒らされ、父母が亡くなったこともあり、傭兵稼業に入ることになってしまった。次々に仲間も加わり、有力なパーティーと名が知られるようになった。リーノは、早い時期に加わった、3人の地元の少女だった。一応、三人の共通した幼なじみだった。そして、一年近く前、勇者パンに出会ったのだ。勇者認定されたばかりで、3人の仲間、聖女、女賢者、魔法剣士がいるだけだった。チーノのパーティー、10人以上になっていたし、一流のパーティーと評価されていたから、目をつけるのは当然だったかもしれない。勇者が加入するのを断る者はいないだろう。快く、勇者達の加入を許した。勇者パンは、その実力は彼らの比ではなかった、別次元の強さだったが、性格も、品行方正、勇敢、思慮深く等々、勇者に相応しかった。ただ、他人を尊重し過ぎることが欠点と言えた。しかし、それ故に、助けたい、力になりたい、盛り立てたいと思わせるところがあった。彼は、いつも悩み、苦しんだものの、逆にこれも長所だったかもしれない。チークもそうだった。

 しかし、姉と妹が負傷し、危なかったのを見て、また、初期からいたメンバーの弓戦士の女性が死んだのを見て、怖くなった。自分達の実力では、姉と妹も、リーノ、ミカエラ達も死んでしまうと、このままでは。勇者パンは、勇者であるゆえに、魔王を倒すことが使命である故に、彼らは魔王軍正規兵との戦いに挑むこととなっていたからである。それについていく力はないと思った、姉妹達、リーノ、ミカエラ達は。しかも、パンの加入後、報酬の勇者への傾斜配分は当然とはいえ、それは次第ににリーノを中心にしてチーム全体に広げることを求め始めた。派手な闘いをする者により傾斜配分となり、パンは度々窘めたが、チーク、カーマ、ボカへの配分が減っていったし、ミカエラ達はさらに減り、リーダーとしてチークを認めない雰囲気も出てきた。それで、勇者パンを丁重に出ていってもらおう、餞別も渡し、そして、自分達は本来の自分達本来のやり方に戻ろうと考えた。“どこも悪くないはず。”

 それが突然、リーノが

「チーク、あんたが出ていきなさいよ!」

と叫んだことから、あんな形になってしまった。

「何を考えているのか?」

 あらためて思った。“そう言えば”

「上に行く、そんな野心が必要なのよ!あんた、それが足りないわよ!」

と言った言葉を思い出した。そして、あの故郷の小さな世界では、男では一番強く、彼女の周囲では彼の家が一番身分的に高かったし、裕福だった、チークは。

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