第2話 人が足りない

「ちょっとというか、けっこうというか戦力不足だな。」

 髭ずらのカユが呟くと、ウサギ耳のミカエラが文句を言った。

「私が弱いとでも言うの?」

「そういうことではないよ。」

 慌てて否定した。

「俺が言いたいのはだな。」

 カーユは、前々回の仕事のことから、話しを始めた。依頼はドアーフからのもので、魔族系のゴブリンに住み家を強奪されたので、取り返してほしいというものだった。地下の迷路みたいな所なので、事前に地図や様子を依頼主のドアーフの族長に教えてもらったし、下見もした、しかもその種の仕事の経験もあったので、十分な準備をした上で、地下に入った。

 まず、先頭は猫耳のクロ。偵察役は危険だが、本人の希望であり、その適性はあった。さらに囮の使い捨てではないから、格闘家のカーマがすぐに援護ができるように、直ぐ後ろについていた。その後にチーク、その直後にボカとウサギ耳のミカエラ、最後にカーユ、それを守るように犬耳のシロ。彼の守りは心強かった。カーユは、歴戦のベテランであり、下手な戦士より戦闘力はずっとあるとはいえ、あくまで荷物運び、サポーターである。防御に強いシロがいると心強い。それに後方は、退路としても重要だし、結構危険だった。チークは前にも、後ろにも気を配っていた。ある程度進んだ時、クロが皆をとめた。ゴブリン達を見つけたのである。すぐに、カーマがクロと合流した。ゴブリン達とカーマが戦い始める。それを、クロが援護して戦う。後方からチークが器用に攻撃魔法で援護した。シロがカーユの後ろにつき、ミカエラが合流する。ボカが両手に短剣を握って、後ろにも注意を向けながら、チークを守るように直ぐ後ろについていた。前から、そして、後ろからもゴブリン達は襲撃をかけてきた。ボカは、後方の戦いの先頭に立った。ミカエラが、素早く飛び出し、退くカーユ、それを守りながら退くシロを援護してから、ボカを支援した。シロは2人が退く時には守ろうと、カーユを守りながら身構えていた。チークは激しくなる前方の戦闘に直接加わりながら、後方にも支援の攻撃魔法を飛ばす。激しい襲撃を受けつつも彼らは進んだ。チーム全員が奥の大広間に入った時、周囲を囲まれていた。3人は、格闘家であり、剣士でもあり、魔道士でもある戦士であり、連係をして戦った。シロはカーユを守り、クロとミカエラはカーマとボカを守って戦った。カーユも大盾をとりだして、鉄棒を持って身を守った。その中で、チークは皆を気遣って、危うい時に、援護してくれた。さらに、皆の体力、魔力の回復をしてくれた。

「姉さん。危ない!」

と身を呈し、姉を助け、

「ボカ。今だ。」

と自分の危機もかえりみず、妹援護した。

 事前の情報よりかなりゴブリンの数はずっと多かったし、大型種も多くいた上、戦い慣れしていて、かつ強力な統率者がいた。この時、あらためてカーユは、残った皆の力をはっきりと確認出来たと思った。

 勇者達がいた頃、チークは、囮に近い偵察役に出されることも多く、また、全員の支援に走り回っていたので、どうしても印象に残る姿を見ることがなかった。カーマとボカは、チークの援護に飛び出して、視界から消えることも多かったし、賢者とかのかなり派手な攻撃魔法の前で、余りにも地味に見えていたことに気がついた。また、3人のチームワーク、一体感のある、息がピッタリの連係した戦いを見る機会もなかったことにも気がついた。さすがに、ブラコン・シスコン姉兄妹だと心の中で苦笑いをした。ミカエラ達にいたっては、自分と同じ荷物運びの姿しか見なかった。”勇者パンのほうだけが見えていたかもしれないな。“チークを囮のように使いながらも、カーマとボカに援護に行くように素早く命じたし、時には自ら助けに行った。一応は、何でもチークに相談し、了解をもらった上で、彼の指示という形を取った。王侯貴族の委任を受けた仕事をこなした時もリーダーはチークだと紹介し、館に招待された際も、彼も館に宿泊出来るようにしようとした。他の反対もあり、チークはリーノや姉、妹が館の部屋、一応身分のあるものの部屋で寝泊まりした時も、馬小屋で寝ることになったものだが。

「あの時は上手くいった。しかしな、不運な偶然が重なったり、相手がもう少し強かったら、危なかったんじゃないか?」

 3人は頷いた。

「それにだ、リーダーの負担が大

き過ぎるだろう。」

 戦いの間は皆を助けながら戦いつつ、支援魔法を、戦いが終わると回復魔法をかける。その無理がたたって、昨日仕事が終わり、報酬をもらうための手続きをした上で、さらに分配が終わったところでいきなり倒れた。メンバーが大量に抜け、評価ががた落ちして、収入が確保出来ないかもという不安から無理をしたせいである。

「だから、全体に補強したほうがいいということだよ。」

 3人は、頷いたものの、

「今さ、魔族との本格的な戦いで人手不足なのよ。だから、私達が仕事があるというわけなんだよ。加入してくれる奴なんかいるかしら?」

 ミカエラの指摘に、カーユは溜息をついて、

「そこなんだよ。」

「ちょうど良い話というか、それを希望する2人が、ここにいるんだが。」

 長身の男女の戦士が2人立っていた。黒髪の美男美女の戦士、どこかで見覚えがあった。

「リーダーに相談しないと。」

 ミカエラが、すかさず言った。

「そうだね。では、又は明日出直して来るから、リーダーに伝えておいてくれ。」

 そう言うと、背を向けて2人は去って行った。

「あ、思いだした。でも、あいつら自分のパーティーはどうしたんだ?」

 カーユが、しばらくして声をだした。


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