全員追放、勇者も、賢者も、聖女も、…恋人も?

確門潜竜

第1話 売り言葉買い言葉で勇者を追放した…

「まあ、勇者達にはついていけなかったからな…。でも、結果的には、良かったわけだ。」

 髭面の大柄な中年の男は、大きなジョッキを口元に運びながら言った。その向かい側で、猫耳、ウサギ耳、犬耳の少年少女達3人は不安そうに食事をしていた。

「姐さん達の気持ちは、よく分かるのよね。でも、あれは驚いたわね。」

「リーダーが、ちょっと気の毒だったな。大丈夫かな?」

「疲労からだから、よく寝れば回復するって。それに、姐さん達がついていることだし。本当に、あの時は驚いたよね。」

「下手すると、そのうち僕らの誰かが死んでいたかもしれないから…兄貴も姐さん達もそのことを心配して…。」

 3人は思い出すように言った。ひと月ほど前のことだった。

「このチームのリーダーは、私の弟なの!あんたら全員、追放よ、追放よ!」

「そうよ!この尻軽女の裏切り者!あんたも勇者と一緒に追放よ!分け前をどうのと言う前に、あんたの今までの借金を返しなさいよ!」

 カーマとボカの姉妹が怒鳴った。見事な黒髪の美人姉妹は、激怒していた。同じく、頭に血が上っている金髪美人のリーナが、テーブルの上に両手を叩きつけて、婚約者、であるはずの、リーダーであるチークに

「あんたは如何なのよ!勇者様を追放するの?自分がでていくの?このシスコン糞馬鹿野郎!」

 成り行きに困惑気味のチークではあったが、彼女ではなく、やはり困惑気味の勇者パンの方を見て、

「さっきも言ったように、僕達の実力では、あんたに、魔王を倒す勇者の旅にはついていけない。このパーティーから出て行って欲しい。勇者とともに行きたいと言う者も引き留めはしないよ。」

とはっきりした口調で言った。

「私達は、元々勇者様の同志です。勇者様が出て行くのであれば、当然出て行きます。」

 聖女、女賢者、魔法剣士が立ち上がった。

「悪いが俺も、勇者様と行くわ。」

「ごめん。私もよ。」

 前々からのメンバーだった剣士、魔道士達も立ち上がった。

「当然私もよ!」

 魔法槍使いの、リーダー、チークの恋人、恋人で婚約者のはずだった、リーナも立ち上がった。

「すまないな…。」

 勇者の方が困った顔をして、詫びるように、

「君の言い分は分かるよ。こうなってしまって悪かったと思っているよ。君たちとの、短い日々は決して悪くはなかったと思っているよ。」

と言って立ち上がった。

「勇者様を恨みはしませんよ。私が力不足で、…力があればお供したのですが、…これは少ないですが、餞別です。目的を達することをお祈りしています。」

と金貨の詰まった袋をテーブルの上に置いた。

「いや、こんなに多く…。」

「ちょっと、何よ、その端金!勇者様のお陰で、随分収入が、あったはずよ!」

 リーナが食ってかかった。それに、カーマとボカが、

「その分、勇者様だけでなく、あんた方への配分を多くしたはずよ!」

「そうよ。それに、そんなことを言う前に、あんた方に貸した金を返しなさいよ!この尻軽女!」

 睨み合う姉、妹と恋人、既に元恋人だが、に溜息をつくリーダーに同情する視線を向けた勇者が、

「君たちも元気で。また、どこかで出会ったら、互いの武勇談でも語り合おうな。」

と握手を求めた。チークも手を差し出した。二人は握手した。これ以上いると、さらに騒ぎになると心配して、彼は皆を連れて出て行った。

 こうして、超一流だと評価されていたパーティーは、2~3流パーティーに評価を落としたのだった。依頼される仕事の質は落ちた、つまり以前より報酬の少ない仕事しか依頼されなくなった、当初は。

「それでも、俺自身の実入りは、かえって増えたからいいがな。しかし、リーダーやあの嬢ちゃん達があれ程強かったとは知らなかったな。」

 報酬が少なくても、残った面々の手取りが増えたのは、それ程勇者と彼と出ていった連中への傾斜配分が大きかったからである。大体、リーダーの取り分が下から数えた方が早いというのだから、異常であった。

 とはいえ、意外に仕事を上手くこなすので、すぐに評判は回復、魔族との本格的戦いで、戦士不足ということもあり、次々実入りのいい仕事が依頼されるようになった。

「おっさんは、勇者様の後に入ったから分からないんだよ。リーダーや姐さん達の強さが。」

「みんなも知っていたのにさ。」

「ふん。勇者様はさ、確かに段違いよ、だからといって、それに幻惑されて、分からなくなっちゃったんだよ。みんな馬鹿よ。」

「でもさ、リーナがあんな女だったなんて思わなかったな。」

「私は、昔から胡散くさいと思っていたのよ、あの女。」

 獣耳の3人は、リーダー達の両親に拾われた連中である。だから、リーダーとその姉妹のことをよく知っていた。そして、リーダーの恋人のことも。

「ああ、そうだな。俺も目がなかったよ。修行が、足りなかったとつくづく思うよ。」

 3人は、強かった。先週の仕事の時に、あらためて実感した。格闘家のカーマ、剣士のボーカ、魔法使いのチーク、と色分けが出来るが、確かに一番の得手はそうだが、オールマイティな強さを持っている。格闘も、剣も、弓も、槍も、魔法もかなりな腕前なのだ。チークにいたっては、回復も強化も支援も、その関係の魔法もかなりの物だったし、雑務も得意だった。“特徴がなさ過ぎて、地味に強くては分からなかったな。”それに、勇者が加入して大所帯になって、荷物運びや色々なサポートのベテランが必要だということで雇われた経緯もあったので、目が勇者にいってしまっていた。そんな風に、自己弁護していた。





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