第10話 破壊粉砕大爆発


◇キャノン◇


 滅亡特典【アンコールライフ】。カガさんが復活したタネの正体がそれであるらしい。


「はー……ちょっと疲れた」


 ……思ったより手間取ったわね。カガさんにここまで粘られるとは思わなかったなー。侮ってたつもりはなかったけどちょっと舐めてたわね、反省反省。

 ライブの終わりを嘆くアンコールのように、倒しても復活する滅亡特典。一回目は確定、二回目以降は確率蘇生になるらしいけど……三回殺してまだ出てきたときはゾンビか何かかと思ったわ。

 度重なる戦闘のなかで引きちぎられた左腕を墓標代わりにその場に残し、あたしは最奥の部屋へと向かった。


 …………。

 ……まさかもう一回出てきたりしないよね? 不意打ちで振り返ったけど誰もいなかった。ちょっとほっとした。




◆ランダム◆


 ダンジョンの最奥手前には、そのダンジョン最強のモンスターが守護者として居座っている。黙示録を描いた奴がそれを見せまいと配置した門番なのか、たまたま住み着いた野良なのかは知らないが、共通していることは一つ。

 攻略するのはそれなりに骨が折れることだ。

 

「何回壊しても復活しますねー……」

「面倒くせぇな、力尽くで粉砕するってのはどうよ?」

「ゲーム性の完全否定だよそれは……!」


 俺たちが対峙しているのは、簡単に言うとゴーレムだ。岩石でできた見上げるような巨躯、脚は短いが腕は比較的長い。顔の部分は空洞。人間でいうところの心臓部には、いかにも弱点でございと主張している赤い宝石。

 しかし特徴的なのはその背中。エメラルドのごとき翠色の水晶が四つ生えている。ついでに言えば、この部屋の四隅にも似たような水晶が生えていた。さて、これが意味するのは?


「おらぁっ!」


 俺たちを狙ったゴーレムの腕を、【セカンドムーブ】で加速した蹴りで粉砕する。鍛えられた俺の脚、岩を砕くぐらいお茶の子さいさいだ。

 が。

 四隅に映えてる水晶からレーザーの如き光が放たれ、ゴーレムの背中の水晶がそれを吸収。するとどうだろう、砕かれたゴーレムの腕がガチンガチンとくっついて――なんと完全復活を遂げたのだ。なおこれで十回目である。

 見た感じ、四隅の水晶が何らかのエネルギーの発信装置、背中の水晶がエネルギーの受信装置だ。どっちかを完全破壊しない限りは多分イタチごっこを繰り返すことになる。 

 と言うわけで俺とカラットがゴーレムを引きつけ、アルコに四隅の水晶を破壊しに行ってもらったところ。


「ランダムさーん! こっちも修復されましたー!」

「分かった! ……一個ずつ順番に壊してもダメってことか。まぁ想像はしてたけど」

「できるなら多分キャノンがやってるだろうからね。多人数攻略前提なら、ほぼ同時破壊……猶予は3秒あるかないかってところかな? 僕ら三人しかいないけどどうする?」

「んー……心臓部を守ってるバリアが邪魔だからぶっ壊す以外の選択肢はないんだけど……」


 心臓部は剥き出しにこそなっているが、その周囲を半透明のバリアで覆われている。これも受信しているエネルギーによって形作られているものだろう。ちなみにこのバリア、攻撃を反射する性質を備えているらしく、開始序盤でカラットが投げたナイフが危うく俺の頭に刺さるところだった。俺が蹴りを叩きこもうものなら、おそらく前ダメージが俺の脚に返ってくる。さすがに試せない。

 触手のおかげで攻撃範囲が広いアルコと、【セカンドムーブ】による高速移動が可能な俺がいればまぁ何とかなる気もするけど……


「んー……いや、待てよ? ちょっと試したいことが出来た」

「えっ、何する気? 大人しくギミックを解除した方がいいんじゃ……」

「明らかに用意されたシナリオに沿うのも面白くないからな。カラット、ちょっとあいつの注意引いといてくれるか? アルコ! 俺をあいつの真上の天井まで飛ばしてくれ!」

「了解です!」

「ちょ、本当に何する気――もうっ、しょうがないなぁ!」


 アルコが俺の胴に触手を巻きつけ、ぶぉんと上に投げ飛ばす。天井に叩きつけられる可能性も危惧したが、いい感じに減速した。アルコもだいぶ【ボディウィップ】の扱いに慣れてきたな。

 カラットはと言えば、ゴーレムに接近して攻撃を誘っている。おかげでゴーレムの背中がガラ空きだ。助かるぜ、それじゃあ行ってみましょうか――天地逆転破壊劇!

 天井を蹴って真下へ加速。空中で体を畳み、ぐるんぐるんと回転する。

 ゴーレムの背中に接近したところで足を伸ばす。重力プラス加速プラス【セカンドムーブ】。この瞬間俺の脚は全てを粉砕する鉄槌と化した。そしてそれを振り下ろす先は――


「その背中の受信器、ぶっ壊されたらどうなるんだろうなぁ!?」


 背中に生えた四つの水晶、そのすべてを巻きこむコースで脚を振り下ろす。思ったより硬い。が――


「粉砕できない、硬さじゃ――ないっ!」


 車同士が衝突したような音を立てて、ゴーレムの背中の水晶が砕け散った。なんとなくだが、この水晶も復活するんだろうなって気はする。しかし一時的なものだとしても――


「エネルギー供給は断ったぞ! 畳みかけろ!」

「はいっ!」


 ビュァ、と直進したアルコの触手が、槍のようにゴーレムの体を貫通。抉り抜くような形で、心臓部をゴーレムの体から外すことに成功した。

 地面に転がされてなおバリアは形を保っているものの、チカチカと明滅を始めた。供給がなくなり、維持が困難になっているのかもしれない。つまり攻撃の大チャンスってことだな!


「はぁっ!」


 カラットが、光を纏ったナイフを振り抜く。その刀身から放たれるのは滅亡特典【グリーンブレード】。接近戦が主と言いながらもちゃんと中距離にも対応してんのな、あいつ。ともあれ、放たれた斬撃は反射――されない。防がれこそしたが、バリアの維持に手いっぱいで反射にエネルギーを回せないのか。こいつはいいや。

 さらにアルコが追い打ちをかける。真上から垂直に、触手が刺突を仕掛ける。するとどうだ、防がれこそしたものの、とうとうその強固なバリアにヒビが入った。ガンガンと突かれる度にヒビは広がって、サッカーボールのような見た目になった。


「んじゃぁ俺はこっちの相手だ!」


 振り返れば、受信用の水晶が復活したゴーレムが。ただしぽっかりと空いた心臓部だけはそのままだ。即座に心臓を取り返すため、直線上の俺には目もくれずにズンズンと進撃してくる。まぁこいつに目はないわけだが。伸ばした腕は蹴りで粉砕、【セカンドムーブ】で加速した蹴りを胸から上目掛けて叩きこんでやれば、盛大に仰け反ってひっくり返った。背中の水晶がスパイクみたいにめり込んだ、これでしばらく動けないだろ!

 俺もバリアの破壊に向かって――


「ら、ランダムさん! なんか光ってきたんですけど!」

「……んんー? なぁカラット、これどう見るよ?」

「僕の目には爆発寸前に見えるかな……これダメな奴じゃない?」


 バリアは砕かれたらしく、アルコの触手の先端が赤い宝石を貫いていた。それはいいのだが、明らかにこう……内部で処理しきれなくなったエネルギーが逆流して赤熱している。なんなら白くなりつつある。どう考えてもまずいやつじゃんね。

 あれか、万が一に備えて敗北の際には辺り一帯を吹っ飛ばす的な……! いやギミック解除してから本番とは言ってたけどこういうことか!? そりゃ誰もたどり着けねえよ、倒したところで大爆発、しかも地下だから逃げ場はないと来た……! 運営め、ここの黙示録見せる気ないだろ……! よく分かった、意地でも確認してやらあ!


「カラット! なんか防御できそうな特典は!」

「ごめん、ない!」

「分かった、部屋の反対側に行ってろ役立たず! アルコぉ! その宝石こっちにパスだ!」

「はっ、はい!」

「や、役立たず……」


 アルコが触手を振るう。先端から抜けた宝石が俺へ向かって宙を舞う。

 

「待たせたね! 真打登じょ……え、何この状況」


 このクソ忙しい時に魔女騎士が追いついてきた。片腕ないじゃんウケる。


「キャノンそこ邪魔! あとすぐに入口塞げ!」

「えっえっちょっ待っ」


【セカンドムーブ】ァ!! 部屋の入り口をゴールに見立て、俺渾身のオーバーヘッドシュートが宝石に炸裂、キャノンの顔を掠めて入口の向こうへ消えていった。ちっ……! 運の良い奴だぜ……!


「状況! 教えて!」

「さっきのが大爆発する! ここはもちろん黙示録も吹っ飛ぶぞ!」

「何それ防がざるをえないじゃんもぉーっ!」


 叫ぶやいなや、魔女騎士の足元から地面が隆起する。現れたのは、大砲の如き火山。火口を宝石に向けるその形を火山と呼んでいいものかは分からないが。


「塞いでも吹っ飛びそうだから相殺狙うわ! 死んでも文句言わないでよ!」

「【エンシェントクリムゾン】か! いいねぇ、ぶっ放せ!」


 火口から爆炎が噴き出すのと、宝石が起爆するのはほぼ同時だった。


「……! いや待ってマズいマズい、これはちょっと厳しい……っ!?」

「踏ん張れキャノン! 骨は拾ってやる!」

「死ぬときはあんたたちも道連れよぉっぉ!?」


 宝石爆発のあまりの威力に冷や汗を流したキャノンが、突然変な声を上げた。アルコが伸ばした触手にいきなり体を引っ張られたせいだ。


「アルコ、何を?」

「悪あがきですっ!」


 言うが早いか、アルコは触手を伸ばしてとぐろを巻き、前方に壁として配置。ちょっと小さくない? いや文句は言ってられない、生き残れるかどうかの瀬戸際なんだ……!


「全員アルコにひっつけ! 少しでも面積を狭くして触手壁の強度を上げるんだーっ!」

「どんな時でもセクハラの瞬間は見逃さないのね、流石だわ」

「テメーを蹴り出せばもっと面積小さくて済むな?」

「二人とも、言ってる場合じゃないよ!」

「……! 火山が崩れます! 衝撃に備えてください!」


 触手の隙間から様子をうかがっていたアルコが、即座に触手を閉じて体を丸める。俺たち三人も極力ひっつくことで迫りくる死に抵抗する。爆発のエネルギーをもろに受けたのか、視界の端でじたばたしてたゴーレムの体が消し飛んだ。

 大爆発による破壊音が、しばらく俺たちの聴覚を支配していた。

 そして――


◇◇◇


「いやぁ……生きてたな、見事に」

「アルコちゃんのおかげね。悪あがきなんてとんでもないわ」

「いいえ、火山のおかげで威力が弱まっていたからだと思います!」

「役立たずでごめんね……」


 瓦礫と言うかほぼ爆心地みたいになってるダンジョンだったモノの中、俺たちは口々に感想を言い合う。いやぁ危なかった……ここまでの行動が全部無駄骨になるとこだった。


「っていうか! ランダムあんたねぇ! 宝石蹴り飛ばした後、あたしに当たってないの見て舌打ちしたでしょ!?」

「したけど?」

「いけしゃあしゃあと……! あたしの【エンシェントクリムゾン】がなかったらあんたもろとも吹っ飛んでたんだからね!?」

「どうせ黙示録独り占めするために俺たちの背中を刺そうと思ってたんだからいいじゃねーか」

「ひどい! 仲間のことそんな風に思ってたの……!?」

「目を潤ませれば信じてもらえると思ってんじゃねーぞ」


 どうせそんなことだろうとは思ってたから別にいいけど。ボスを倒すまでが共同戦線、以降はこいつこそ真のボスだと俺は思ってたからな。


「で、やんのか?」

「……今回はやめとくわ」

「あん? 珍しいこと言ってんな、偽物か?」

「お望みならあんただけシバき倒すわよ。今回はアルコちゃんに救われたわけだしね」


 そういうこともあるか。さて、それじゃあ……


「や、役立たず……」

「カラットさんは役立たずじゃないですよ! ボスとの戦いで頑張ってたじゃないですか! 大丈夫です、カラットさんはすごいですよ!」

「うぅ……ありがとう、アルコ」

「おう一番弟子と役立たず、そろそろ黙示録見に行こうぜ」

「がはっ!」

「か、カラットさーん!」


 それなりに時間も経ってる、もういつ世界が滅んでもおかしくない。そうなる前に、この大騒動の発端である黙示録を確認するため、俺たちは辛うじて形を保っている最奥の部屋へと足を踏み入れた。


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