第147話 第二章 マルタ島 包囲戦とその前の出来事‥ラテン語

砕けた塔の上には仲間たちの首が掲げられている。

「・・・・・」「・・・・」

皆、声もなく泣きながら、こちらも砲弾の嵐に晒されていた。

砦の足元ではイエニッチエリをはじめ、オスマン支配下の敵兵士が侵入しようと

絶え間ない攻撃を続けていたのだった。


聖エルモ砦 海に突き出た場所にある

砦の一つ


どうすることも出来ず墜ちていた ただ、見守る事しか出来なかった。

昔の‥ロドス島の包囲戦同様に 

敵軍は兵士の数で勝り、物質も船で途切れる事なくは運ばれてゆく。


「あ、あれは?」「遺体か 騎士たちや砦にいた者たちの遺体だ」

流れてきたのは‥沢山の無残な死体だった。



再び、マルタ包囲戦の前


城塞の中で人々は賑やかに話している。

多国籍で集まった騎士たち それに彼らに従う従者などもいる。


「飲み水の確保に‥」「雨が少ないのでもっと貯水池を増やさないと」

「海で捕らえた商船、イスラムの商人を名乗る者は間者ではないようです」

「オスマン帝国の動きだが‥」


そこに‥

「間もなく、祈りの時間 それから食事ですね」

朗らかに笑う一人の下働きの少年

「ああ、シオンか」「はい、今日は鶏肉と野菜の煮込み料理と魚料理です」


シオンはどうやら言語にも通じていて

イタリア語やフランス語、スペイン語(カステーリア、アラゴン)ドイツ語 

英語などでも「祈りの時間です それから食事」


「あの子(シオン)はよく働いてるな」「そうですねヴァレッタ総長」

「シオンを見て不思議そうな顔をしていますが?」


周りがにぎやかに話をしている中 

そっとヴァレッタ総長、グランドマスターは下働きの少年シオンに問い掛けた


「シオン、食事は何だ?」

ヴァレッタ総長は古代のローマ帝国で使われた

貴族階級や教会の司教たちなどが使うラテン語で話しかける。



「え、鶏と‥あ」シオン

シオンはしまったと言う表情をした後

「ええっと‥・僕に分かる言葉でお願いします」シオンが言う


「お前は何者だ?」今度はオスマン帝国で使うトルコ語で話しかけるヴァレッタ総長

「‥‥・」きょとんとした顔をしたシオン


「もう一度、聞くが お前は何者だシオン?」今度はアラビア語で聞く

ヴァレッタ総長


「あの‥」本当に困った表情で戸惑っているシオン


「‥いや、私の勘違いだ 悪かったなシオン」ヴァレッタ総長

「飲み物をどうぞ、グランドマスター ヴァレッタ総長」

シオンは壺に入ったミントの葉入りレモネードを銀のカップに入れて差し出した。


「ありがとう」「いえ、グランドマスター ヴァレッタ総長」


去り際にシオンがすぐ近くで呟くように言う

「僕は魔物です お忘れですね ふふ」アラビア語でそっと呟く。

「えっ?」ヴァレッタ総長


「魔物です」次にはトルコ語 

シオンを見ると瞳はいつもの青ではなく、金色に輝き口元には小さな牙

「次はギリシャ語でもいいですけど くすくすっ」「‥魔物」ギリシャ語での一言


驚き目を見開くが‥


「どうされました?グランドマスター、ヴァレッタ様」

にこやかにいつも通りの笑み、微笑するシオン


「あ、いや 今のは幻か 何でもないシオン」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る