第118話 マルタ島 施政院(病院)で マーニャと老人

マルタ島の施政院(病院)などは遠くからの来訪も多い

マルタ騎士団の施政院は

当時、この時代としては設備など整い、腕の良い医師たちを集め大層、評判は良く

勿論、騎士団の中にも医師や看護の心得がある者達も多かった。


「マーニャ こちらもお願いします」「はい」

改宗したユダヤ人の娘マーニヤ

彼女もまた、此処でコマドリのように看護師として活躍していたのだ。


「あら、あれは‥吟遊詩人の‥」

中庭に佇む吟遊詩人の少年シオン 彼がにっこりとマーニヤに微笑する。


「こんにちは 忙しいそうでですね」シオン

「はい、あの時の海賊船では有難うございます」マーニヤ


「気にしないで良いよ それより

‥あちらの病室の騎士 怪我人の騎士、マーニヤに気があるみたいだね」

窓辺から病室の騎士の姿が見える なかなかの美丈夫 

細やかなくせ毛の金の髪に端正な面立ち


「え、そんな あの方は騎士で貴族ですもの」視線を逸らして赤くなるマーニヤ


「恋は‥突然始まるものだよ じゃあ、僕はこれで また後でね」シオン



「さて、後でお食事にお洗濯」マーニヤの呟き

此処で使われる衛生的な『銀の皿』は

騎士団に入隊した貴族の子弟たちが寄付した者が多い

案外と高価な柔らかな白いパンも出される。


「マーニャ いつも可愛いね」病室、怪我人の騎士の一人

彼に優しく見つめられて

マーニャは少しはにかみ、赤くなる。


「そんな‥あ、あのもうすぐ食事ですわ 後少し待ってください」

「ああ、ありがとうマーニャ」

彼の視線を感じつつも

病室から出て廊下を速足で歩くマーニャだったが


「あ、お爺様」「久しぶりだねマーニャ」

廊下で一人の老人がマーニャに微笑んだ後で大きな手で抱きしめた。


「お爺様、医師としての仕事ですか?」マーニャ

「そんな処だ マーニャ

積もる話もあるから 休憩時間でゆっくり話しても良いかな?」

「はい、お爺様」「では、また後で」


一旦、マーニャと別れて中庭に向かうと

其処には‥

「サラ!私のサラ いや、そんなはずはない!

あの子は‥サラは私より10歳ぐらいしか変わらない」

「それに あのスペインの地で死んだのだ 私のサラは死んだ」


「ふふ、どなたかと お間違えのようですね 僕はシオンです」

そう言って微笑する吟遊詩人の少年シオン


「‥そうだな他人の空似だ 失礼した」

微風がシオンの黒髪を揺らし、青い瞳が老人を見ている。


「いえ、スペインの地 

貴方に逢い、とても楽しかったと僕の大事なサラは言ってましたよ」「!!」


「レコンキスタ‥スペインの地

レコンキスタの戦いでイスラムの者達はスペインから去りましたが ユダヤ人達も

動乱の中でサラは危なく‥」


「でも、危険な中でサラを貴方が助けようとしてくれたから 感謝してます」


中庭の中にいる二人

微風‥花の香りがした シオンが老人を優しく見ている。

それから、また言葉を紡ぐシオン

「貴方はスペインの地で改宗して 危険な動乱、難を逃れた」シオン


「何故、それを‥サラの事だけでなく、私の事を知っている?」

老人は声を絞り出すように問いかけたが

驚愕して驚く老人から微笑してシオンはその場を去った。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る