第117話 予兆、未来の時間 苛烈な夏の季節 海からの腐臭 ※少し残酷描写あり

海から漂うのは、潮の匂いではなく腐臭


腐敗した膨大な数の死体 敵も味方も分け隔てなく無残な腐敗した死体‥の腐臭

海の入り江に漂う死体達 


プカプカと海に浮かび

腐り果て、原形を留めてない死体が波に揺られて浮かんでいたのだった。

 

それに苛烈な夏の季節

シロッコという熱風の嵐が北アフリカからやって来る。


砦の一つから海を見渡す

「ヴァレッタ総長」「グランドマスター‥ヴァレッタ総長」

「当然だが、敵の軍に疫病が蔓延しているようだ チフスに赤痢か」

ヴァレッタ総長は呟くように言った。

その間にも激しい大砲の音は止まずにマスケット銃、火縄銃の撃ち合う音も‥


「こちらは別名を病院騎士団、あれらの疫病対策の方は手慣れているが‥」

「食料や武器の方は‥」ヴァレッタ総長の問いに

「消耗が激しいです」部下の一人が答えを返す。

「そうか‥援軍が遅すぎる これでは」ヴァレッタ総長の小さな声の呟き



入り混じる記憶‥それに未来の戦いの予兆?


ロドス島包囲戦も絶望的な戦いだった。

そうしてマルタ島の包囲戦もまた…


圧倒的な敵の数に加え、敵の豊富な兵站の量

我等の戦力は彼等に比べれば‥僅かな数


少なくともロドス島の戦争ではスレイマン大帝は若く、敵に対して寛大だった。

だが、年齢を重ね彼も変わり

彼自身でなく敵の高官達が指揮を執る‥冷酷で容赦ない海賊も軍の司令官として


ヴァレッタ総長は一人、僅かな休息の為に部屋にいて 眠気に襲われ

眼を覚ますとそこには

いつもの吟遊詩人の姿でなく平民の服を着たシオンが立っていた。

「お食事をお持ちしました 少しでも食べなくては‥

昨日もあまり食べすにおられて」シオン


「何処かで逢った気がする?」

「誰だ? 海の戦いで海に立っていた巡礼服を着た少年?

いや、そうじゃない リュートを?」ヴァレッタ総長


「何の話でしょうか?」綺麗な青い瞳、目をパチパチさせてシオンが答える


「ああ、そうだ 食事をしないと‥」ヴァレッタ総長が独り言のように呟く。

「はい、グランドマスター ヴァレッタ総長」

にこやかに微笑するシオンはスープのサラをテーブルに置く。


「ふむ、ところで君の名は?」ヴァレッタ総長の言葉に

「シオンですよ お忘れですか?」シオンはそう言って微笑する。


夜の静寂

それから‥蜜蝋がジジジとい音を立てて、炎が消える。

「う・・うむ?」目を覚ますヴァレッタ‥まだ、今は、今この時はヴァレッタ隊長


「うたた寝をされていたようですね

グランドマスター ヴァレッタ総長‥ああ、ヴァレッタ隊長」シオン


「ん、今‥何と私を呼んだか?」ヴァレッタ隊長の言葉に

「え、いやだなヴァレッタ隊長とお呼びしましたよ」微笑してシオンが言葉を返す


「今日は僕からの御土産ですよザクロにナツメヤシそれにオレンジ」

「珍しい事もあるものだな」ヴァレッタ


「うふふ 隊長はお食事はされましたか?

時々食べてないようですから」


「シオン。私はちゃんと食べているぞ?」きょとんとするヴァレッタ隊長


「あ、ああ、そうでした 処で一曲いかがですか?」シオン

「うむ、頼むとするか」ヴァレッタ総長



「未来のマルタ包囲戦では‥気の毒な程に良く、食欲がなかったようでしたから」

シオンは過去と未来と現在を見通して‥視る

小さな声で呟くシオン






1月24日前後から 1月吉日


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