第116話 夜半の会話 リラダン総長とシオン

マルタ島 闇の中にある月が美しい夜

砦の城、リラダン総長の部屋からリュートの音楽が奏でられているが聞える。

部屋から甘い蜜蝋から出来た蝋燭の香りが漂う


「幾たびも疫病は欧州を席巻した 様々な疫病に多くが命を奪われた病

疫病の中には‥あの黒死病ペストも‥天然痘もある」リラダン総長


「イタリアだったか‥逢った若い医師

父親の代で改宗したユダヤ人医師ノストラダムスという名

彼は妻や息子を黒死病で無くしたそうだ」リラダン総長


「ヴェネチアの黒死病 

その騒ぎの時には医師たちが奇怪な姿をしていたか‥鳥のような奇妙な仮面」

彼はため息をついて赤いワインを口にする。


「百年戦争の後も壊滅的な疫病の一つ、黒死病で多くが死んだな」リラダン総長

「はい、グランド・マスター」微笑しながらシオンが答えた。


「街が幾つも壊滅しました‥それに見捨てられた哀れな人達」

吟遊詩人としてリュートをつま弾き、音楽を奏でながら そうしてシオンは答える。


「僕は長い時を生きてきましたから‥見ておりました

 戦、戦争の惨たらしさも‥」シオン


「ああ、戦争は数多く見て来た」苦笑しながらリラダン総長


「シオン‥」「はい?」

「私の時間はもう、そう多く残されてないのであろう?あの蝋燭のように」

リラダン総長は後少しで燃え尽きる蜜蝋の蝋燭を見ながら微笑した。


「何故そんな事をおしゃられるのですか?」シオン

「お前の顔に書いてあるからさ‥」リラダン総長


「イスラムの商船に海賊達退治‥防波堤としての役割は続き

それだけでなく、今度はまたオスマン帝国との海戦らしい‥」リラダン総長


「今日は冷えます 祈りの時間も済み、ゆっくりとお休みください」

何処か寂しそうな表情をしてシオンが言う 何かの想いを込めて言葉を紡ぐ。




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