第115話 ヴェネチア ゴンドラに揺られて‥イヴァンとヴィクトリアン

ヴェネチア共和国 ゴンドラでは水音に歌声が響く 水の都ヴェネチア

遠い過去の時代に滅び去った悠久の帝国、古代ローマ帝国


古代ローマの民、土着の民だった者達

生き残った彼等は導かれて

危険な異民族から逃れる為に干潟に作った水の街だと伝承は伝える。

杭を土台として作り上げた水上都市 翼を持つ獅子が守護する街


それから時が過ぎて‥商業都市の側面を持ち

今、此処では異国の者達、イスラムなどの商人も道を往くのだった。


「以前来たときには元首ドーファンが海に金の指輪を投げいれていたっけ」

彼、イヴァンはそんな事を呟いてみる。

今は目立たぬようにいつものターバンを外したイヴァンが言う

元の名はマルコ、本来はこちら側の人間だったのだ。


イヴァンにとっては今回は商用の旅

彼の手には幾つもの荷物があって運河を往くゴンドラに乗り、揺られながら

水の音、それに微風が心地良い。


水の上に立つ建物群の中には幾つもの運河があって‥

街の通りを繋ぐ橋もある。

ゴンドラはそんな運河にある幾つもの小さな橋の間を通り過ぎ、水音が響く。


「あの子はどうしているだろう?」恋しい面影の少女マリアを思い出すイヴァン

切ない想いが胸を締め付ける。


「まあ、今日はヴェネチアでお仕事ですの?」

行き交うゴンドラ越しに声を掛けられる。 


美しい金髪巻き毛をして、猫を思わせる緑色の瞳が印象的な女性

魅惑的な大きな胸に‥絞られた腰、素晴らしい肢体 

彼女の衣装、ドレスは欧州の裕福な市民のもの


「あ‥?」きょとんとするイヴァン

「うふふ、ヴィクトリアンですわ お忘れかしら?」

「販売物は胡椒に珈琲、砂糖‥どれも貴重で高価ですわね」

続けてのヴィクトリアンの言葉


「ええ、そうです」

「買い物は頼まれた品物類、献上品のレース、ヴェネチアン・ガラスの器

香水に‥書物類でしたわね」ヴィクトリアンが謡うように話す。


「あの‥何故知っているのですか?」

「貴方の御父様のお仕事をよく頼まれますから」イヴァンの問いにヴィクトリアンはそう言って言葉を返すのだった。


「ああ、美味しい血、そうねイヴァン様 貴方の血はとても美味しい血

記憶を消したから、覚えてないでしょうけど」

小さな牙、小さな声でそっと呟くヴィクトリアン


「‥他にもよく知ってましてよ 例えば愛しいマリア嬢」「ええ!」

それ以上の言葉を交わす前に

ヴィクトリアンの方が乗ったゴンドラは水辺に波紋を残して通り過ぎて行く。


「待ってください!彼女の事を教えてください」イヴァンの叫びに微笑だけを残して

ヴィクトリアンは去ってゆくのだった。



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