第112話 ムスタファ皇子の憂鬱

壮麗なる皇帝 アラビア語でソロモン王の意味となるスレイマン大帝

イスラムの覇者、全盛期の一つを迎える

広大な帝国の跡継ぎとしては若く才覚のあるムスタファ皇子なら 

帝国を引き継ぐに相応しい人物とも言えた.


国の柱であれる大宰相の支持

軍、それもイエニッチエリ達の間でも軍人としての能力、指揮官としても優秀で

絶大なる信頼と人気 だが、ムスタファ皇子 彼は‥彼の心は


「‥‥‥‥」

ムスタファ皇子が想いを寄せる 愛らしく美しい異国の少女マリア

帝国の跡継ぎ問題 

その深い闇は彼のみあらず、大事な少女まで引き込もうとしている。


少し前に逢った母の言葉  その母の言葉が重くのしかかるのだった。

「‥わかっているのでしょう? 貴方が私達の言う通りにしないなら

あの可愛い愛らしいマリアは冷たいむくろになってしまうかもよ」

「それとも‥私のムスタファ

あの女、ヒュレカムが小鳥のように、か弱いマリアに何をするか?」

「ヒュレカムは皇帝の心を一人占めしてハーレム、他の女達を追い払った」


「母上」眉を潜め、彼、皇子ムスタファは言葉を遮ろうと試みるが‥


寵愛を奪われた悔しさもあって彼女は続けて言葉を重ねるのだった。

「このオスマン帝国の長い歴史でもあってはならない事よ 許されない事」



庭園からは澄んだ青い空に木漏れ日 噴水の水音に小鳥の声が

心地良いというのに


「ムスタファさま」庭の奥から現れたマリアに声をかけられる

「ああ、マリアか」彼女の姿、その声に少し心が軽くなる想いがするのだった。




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