第90話 黒衣の神聖ローマ皇帝 スペイン王

「聖堂では 我らの世界と亡き愛しい心穏やかな私の妻イサベラの為に

祈りを捧げた それに‥」

国の為のポルトガル王女との政略婚姻であったが 

誰よりも妻イサベラを愛したのだった ゆえに


理想主義者でもあるスペイン王、皇帝カール1世(カルロス1世)は

次の妃を求めずに長年、喪を示す黒衣をまとう


それは彼の母親、スペイン女王のファナが

誰より激しく心壊れる程に夫を愛した如くに 

彼もまた、うちに秘めた激情と愛の深さの重みで愛しき恋した者を忘れられずにいる


「いえ、ご無事で何よりでございます 

御身はこの世界、欧州、キリスト教カトリックを守護する唯一の神聖ローマ皇帝陛下カール5世陛下でございます」魔物、一人の若い姿をした娘 

メイド姿の娘が笑顔で答えたのだった。


豪奢な王宮の部屋の一室 

会話は万が一の事 誰かに聞かれる事を考えてか、

皇帝の育った国で話されるもの 曽祖父はフランスのブルゴーニュ公

今はフランドル貴族の使うフランス語、だがフランスは生涯の敵の一つともなったのだが・・彼は殊更フランスの地とパリを愛していたのだった。


「先程の聖堂での帰り道 私への暗殺騒ぎは毎度ではあるが‥何しろ、敵も多い」 「はい、陛下」皇帝、スペイン王カール5世(カルロス1世)の言葉に頷きながら 

魔物の娘、彼女の翠色の瞳が大きく見開かれて妖しく輝く


「貴方さまの後にも皇帝は続きますが 貴方様だけがローマ法王様に

教皇さまに戴冠された最後のローマ皇帝となります 

そのように主が私に申しました」魔物の娘ヴィクトリアン


「‥未来視か、占星術とは違うようだが」

皇帝は自身の短い栗毛色のあご髭に触れながら ヴィクトリアンに問う


「私の主さまは近い未来しか述べられません」

魔物のヴィクトリアン メイド姿の娘が答えた。


「私からの書状、これは聖ヨハネ騎士団、病院騎士団の‥」「はい」

封をされた手紙を受け取るヴィクトリアン


「次のマルタで育つ 島の借り受け金、マルタの鷹が楽しみだ 

鷹狩は王族や貴族の気晴らしだ」

「はい、陛下」


「では私はこれにて‥」「すまぬなヴィクトリアン」


「場所によっては別の言語で‥私は戦地にいる事も多い、王宮に潜む内なる敵に

我らの当世の敵はオスマン帝国だけでなく裏切り者の仏蘭西にルターの異端者たち」

皇帝はそっと呟くように言う


「はい、心得ております」ヴィクトリアン


微笑んで皇帝は謡うように朗々と述べた。 

「この地 スペイン 新たなる王国 

スペイン語は神への言葉でありイタリア語は愛しき女性への言葉でフランス語は騎士たる男性への言葉、ドイツ語は‥ふふっ」

「ドイツ語は黒き森と季節に彩られた時の草原 白き雪の雪原

緑なす草原にドイツの深く黒い森を駆け抜ける馬のような‥」


会話の後でヴィクトリアンは笑みを浮かべ仰々しくもそれは丁寧な礼をすると

金糸の巻き毛の娘がそう答えて、彼女は情報の書かれた紙を一枚手渡すとその姿を消した。


微笑して 彼、黒衣のキリスト教世界の王、皇帝 多数の王国の王の称号を持つ

この時代の中核をなす者が一人 豪華な部屋に残される。


理想に満ちた経験なカトリック信者

スペインを統合した女王と王 カステーリアとアラゴン王国2つの王国の孫


彼等の一人娘ファナ王女 

スペイン女王とハプスブルグ家の王子フリップ美公の子供‥

先祖には多くの王家の血すじ 近親婚に近い重ね合わせた 青い血の結晶でもある


曽祖父 フランスのブルゴーニュ公 彼はスペインでなく異国で育ち

イタリアでの戦争では戦いに勝ち イタリア王としても戴冠 ローマ法王からの戴冠を得る事になったのだ 

他にも先祖たちの婚姻もあって世界各地の王国の王位

 

だが、度重なる多くの激しい戦い オスマン帝国、フランスや欧州各国 新教徒ルター派たちの争いに心身ともに疲弊してゆく


スペイン系ハプスブルグ家は尊い青い血の近親婚を繰り返して、子孫を絶やす運命にもあった。

皇帝位はやがてハプスブルグ家へと‥



※青い血は 白い肌に浮き出る血管とかだそうです?王家 貴族の栄誉

貴族の義務・・ノブレス

※カール フランス語だとシャルル イタリア語だとカルロ






獅子座新月 7月吉日 追記あります




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る