第86話 夕暮れの波とサラとシオン

マルタ島の海辺 波打つ さざ波

艶やかな金色を帯びたくれないの夕暮れの風景から紫を帯びた紫へ

やがては闇色へと変化する 静かに星が瞬いている


遠い昔 その時代、巡礼者の姿のシオンは静かに水際に立ったまま

海風に吹かれていた


「シオンちゃん」楽しそうに笑うサラの声

シオンを後ろから甘えた子猫のように抱きしめるとやがて幻のように消える


「僕のサラ 本当のサラはとうの昔に消え去ってしまった

僕の作りだしたイリュージョン 可愛い・・だけど」


「シオンちゃん」その声にハッとする

「大丈夫、シオンちゃん」


「うん 大丈夫だよ 僕の可愛いサラ」「うふふ」


「ねえ 大昔の事でも思い出してたの?シオンちゃんは本当は年寄りだもんね」


「‥‥・」その言葉に思わず黙るシオン


「あの第二回十字軍のアキテーヌのお姫様とかああ それとも

息子のリチャード獅子心王?」サラが屈託なく無邪気に話かける


「本当に年寄りだよねえええ くくっ」嫌な感じの笑みのサラ


容赦ないサラの言葉に涙ぐむシオン


「うふふ 泣かないのシオンちゃん 

さあ、また美味しい食事をたかりに行くわよ」サラの嬉しそうな言葉

「ちょっとサラ!痛いって」

そう言うなり 問答無用でシオンを引っ張ってゆくサラの姿があった





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る