第21話 ソロモン王の名を持つ皇帝 ※追記


西洋と東洋を結ぶ ボスポラス海峡 帝国の都であるコンスタンティノープル 

大いなる長い歴史を刻んだ街が

間もなく まるで謡うような 聖句 神への祈りの声が街を包む時間になる


街の喧騒 美しい海峡をトプカプ宮殿からバルコニーから眺めている 一人の男


すべてを手に入れ 生まれた時から 膨大な豊かなる富にも権力にも

多くの幸運にも恵まれた

それらを駆使する才能も天から与えられた スルタン、皇帝スレイマン1世


数か国語に 国務 軍事を指揮する才能 良き家臣達に 

幾たびもの遠征は その多くが大きな成功を収めた


後の時代には 黄金期を築いた皇帝として称えらえる スレイマン1世

知恵を称えらえた古(いにしえ)の『ソロモン王』 

アラブの言葉だと 『スレイマン』となる


歴史上、 後の時代に『スレイマン大帝』とも呼ばれた


「ギリシャのロドス島から届いた 蜂蜜漬けの果実ですわ スレイマン様」

「ふむ、ロドス島のものか では頂くか 有難う 私のヒュレカム」

彼の髭のある口元に笑みが浮かんだ


彼スレイマン1世に 声をかけて 

支配地ギリシャ、ロドス島の果実を差し出した

美しい異国から来た娘でロシア系の金髪 その声は特に甘やかで心地よい 


頂点に立つ大国の覇者 皇帝でありスルタン スレイマン1世


そんな彼が一人の美しい娘を溺愛、寵愛して 

小鳥のような、さえずるような声の娘を初めて 皇后とした


それは法を破り 騒動となった出来事の一つ 


金の髪を持つ娘 遠い国から浚われて

連れて来られた奴隷でしかなかった哀れな娘だった 異教徒ロクサリーヌ


彼女の為だけに 奴隷の身分を解き 正式な婚姻を結んだ


彼はスルタン、皇帝として多くを成しえた

国々を征服して 更なる領土に 国をますます富ませ、国の内政も大いに成功して

発展させてゆく


壮麗なる宮殿で 愛する金の髪を持つ 美しいヒュレカムと微笑みあう

「私は幸運だな 私は一人息子だったから かの先祖たちのように

皇帝の位を巡り、血を流し合って争う事もなかった」


ロドス島の蜜漬け果実を口にしながら そう呟く


スレイマン1世 その言葉に ヒュレカムは言葉を返した


「お優しい 慈悲なる心を持ち、素晴らしい皇帝

貴方様の御蔭で 国はますます発展していきますね」


「まるで 遠い昔の英雄サラデインのように 敵にも慈悲を示された」


「あのギリシャの島 ロドスでも・・・」「ふむ、そうだったかな?」


「英雄サラデインは 戦上手で戦神の如く しかし、敵でも民人には 救いを与え

無事に帰れるようにと心を砕き、金まで渡してやったという 

敵の女 彼女の哀れな不幸に涙したとか・・」


「ああ、そうだね ヒュレカム 彼がイエルサレムを解放したのだ 

それにリチャード獅子王と死闘の末、交渉した 

敵であるはずの十字軍 兵士にさえ、彼は尊敬されたのだよ」


「エジプト、イスラムの真なる英雄 心優しく情け深いサラーフ・アッディーン」


ヒュレカムの言葉にスレイマンは笑って答えた

そうして、いつものようにヒュレカムは微笑み 召使に合図して 

茶菓子にお茶を差し出す


召使が輝く銀のポット それを高々と上から細長い管から注がれて 

お茶は まるでリボンのように螺旋を描き 器におさまってゆく チャイ

(香辛料入りミルク紅茶) 

ミルクと紅茶 グローヴ、シナモンの香辛料

砂糖が入った甘い香りが漂う


「ナツメヤシ(デーツ)のお菓子もありますのよ」「ああ、有難う それも頂くか」


「・・慈悲か まあ、それは相手次第でもある 状況もだがね

私は残念ながら、心優しき情け深い英雄サラデインとは違う 

時に 心を違えても国の利益を守らねば」


ゆったりとしたクッションに身を委ね 微笑むスルタン スレイマン1世


「ヒュレカム 我が皇后 そなたの言葉で昔の戦いの一つを思い出していた」 

「まあ それは?」

小首をやや曲げて 心地良い声に 美しい碧眼を輝かせ聞いてきたヒュレカム


「遠い昔からいた 小さな騎士達の生き残りかと思ったが なかなかにしぶとい」


「数の差でも圧倒的に 彼等は少ないが 本当にしぶとかった

・・敵ながら 自分たちの事よりも 島の住人たちを心配して守ろうとした」


「イエルサレム 彼等の十字軍国家が滅び去りパレスチナから追われた 

今では おもに海で騒動を起こす者達」


「大昔 リチャード獅子王と共に戦った騎士団の一つだった」


「その騎士団の名を受け継いだ者達だ 

ああ、そうだ もう一つのテンプル騎士団は無いそうだが」


「神への祈り 啓曲(けいてん)の民 アフル・アルキターブ

その誇り高き騎士として その心根は敵ながら尊敬に値すると感じて」


「だから あの古(いにしえ)の英雄サラデインのように 

私は慈悲を与えようとそう思った

彼等が困らぬように それに島の者達にも 与えすぎる程の慈悲を・・」


「また 煩いなら 今度は前回のような慈悲は かけぬ・・いや、わからぬ」


「奴らにとって 私達は長年の敵で それに パレスチナを追われた後で・・」


「長い年月 数世代に渡り住んでいたロドス島を取り上げたのだから 

包囲戦で苦しめた経緯もある まあ、慈悲は与えたが 恨んでいるやも知れぬがな」


「それが『戦のならい』といえども・・ 

本来は 勝者が敗者に対しては全てを奪い その存在 汚名を着せ 

時に残酷な見せしめをしながら 惨たらしく一族もろとも 命さえ奪うのだから」


ヒュレカムはスレイマン1世の言葉を微笑みながら聞いている

それから また口を開く


「哀れな身の上だった私の為にも 多くの事を成し遂げて頂きましたわ 

慈悲深いスレイマンさま」


「そうだったかな?」「ええ」


大昔の残酷な出来事 

大事な妻が敵に辱められた という出来事により

法では一人だけの正式な立場の妻を持つ事は禁じられていた 


法律を破り捨て 奴隷の立場であった彼女を正式な皇后という

大きな立場にした事は 本来なら皇帝、スルタンでさえ 難しい事だった


「スレイマンさま」「ああ、何かな?」

「ギリシャ ロドス島の薔薇水を使ったお菓子に蜂蜜菓子もご用意してますのよ」


ヒュレカムは 色鮮やかな器に入った菓子を差し出す


「ほう、それは頂くか 子供達にも・・」「はい 大丈夫です」


口に菓子を運びながら 思い出し笑いをして スレイマン1世は笑った



可愛い沢山の子供達 

だが、それは後のスレイマン1世の心に残酷な苦しみを与える

何故なら 皇帝の位 王座は唯一 一つしか無いのだから・・






※参考までに イスタンブールと改名されるのは 後の時代となるそうです


※典型の民 イスラム教の解釈では ユダヤ教徒 キリスト教徒は 

同じ神 唯一の神が それぞれの言語でそれぞれの預言者から 

与えられた聖典を持ち

イスラム教では それらを独自解釈も含めた後で

最後で最大の預言者がムハマンド(マホメット)であると解釈しています 

なお 注意事項として  

これはイスラム側の解釈となります


初稿 22日の夜遅く




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