第84話 半分ゴーレム達の戯れ

 「君が、オククの拾ってきた少女かい?」


爽やかな声が、薄暗い部屋でうずくまる少女にかけられた


少女は、顔を上げ 虚ろな目で、声の主を見る


「うん、出来上がってるね その感情の無い目 絶望しかない目 いいね、順調だよ」


少女は、胸に抱える人形を強く抱きしめる


「その、人形が弟かい? たしか、片方の手だけ生身だそうだね」


声の主の手が伸び、人形を掴む


少女は、更に力を入れ人形を守ろうとする


しかし、スルリと人形を奪われた 少女の左腕のゴーレム義手が力を失ったためだ


「お、弟を 返して」


まだ、少女はうまく言葉が紡げない 顔の下半分はゴーレム 部屋に引き籠り言葉を出す訓練をしていない為に舌が上手くうごかせない。


少女は立ち上がる、


そして、手を伸ばす


「嫌だよ、こんな可愛い子を独り占めなんて、駄目だよ~~~」


「あは、 あは、 かわいい かわいい うそ うそつくな~~~~」


少女は叫び、瞳からは涙が溢れ出す


「そ、その 人形が、かわ いい そんな 訳 ない」


「そうかい、私は可愛いと思うよ」


声の主は、人形を抱きしめて頬ずりしだした。


人形の弟 右手だけ生身の人形 白い陶器出来た人形 まるで子供が作ったようなデッサンが狂った人形 大きさだけは弟の人形


少女は、そんな人形だが たしかに その人形に弟を感じる そしていつも握り合っていた手が だから こそ 絶望してしまった 弟を醜い陶器の人形にした、その邪悪な所業に 


あのまま、二人で死んだほうが…………良かった


そう、少女は薄暗い部屋で思い続けていた。


「お、弟を返して」


そう言って、声の主の手から弟を取り返そうと飛びついた。


奪い合いになった、


声の主は その奪い合いを楽しんでいる、まるで子猫がじゃれついてくるのを楽しむように。


少女は、ぎこちない動きで必死に手を伸ばす。


そして、奪い合いのなか 少女は感じる 声の主が 自分と同じなのだと


人であって ゴーレムでもある 自分と同じ 者 物 なのだと。


「君も可愛いよ」


声の主は、そう言って 弟を少女に返した。


少女は、弟を抱きかかえながら 声の主を 改めて 見た


そして、困惑の表情を浮かべた


そこに、いたのは 綺麗な青年 自分と違う 優雅さと高貴さを感じさせる 自分と同じはずの半分ゴーレム


違う


自分のような、陶器で出来た 半分ゴーレムに見えない


まるで、人と同じように見える でも 感じる 半分ゴーレムだと


困惑を感じた、青年は答える


「君は3重魔法陣のゴーレムで造られた、私は5重魔法陣のゴーレムで造られた その違いだよ」


少女は納得する、ああ やっぱり 私と弟に与えられる物など こんな物なのだと こんな身体なのだと


前に立つ、青年とは違う スラムで暮らす いつも空腹な私達は生きていても苦しいだけなのだと いや こんな身体で生きていけるのか 生きていると言えるのか。


「そ、そうですよね …………」


少女は、また弟を抱いてうずくまる



妖艶で邪悪な言葉が少女を濡らす


「暗い地下に、君の願いを叶える者がいるよ………… 連れて行ってあげよう………… そこで君は願いなさい ………… 命を懸けて、体を砕いて、心を砕いて、狂気を持って、激しく諦めずに…………願いなさい…………」


青年の手を取り、立ち上がった少女は部屋を出て…………地下へと向かう。



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