新たな爆弾
学院生活二日目。早速事件は起きる気がする。
(気がするって……)
その方が面白い。
(面白くないわボケェ!)
あ、トラブルが向こうからやって来た。
(え!? マジ!? って、あ……)
それはフローラによって未来を閉ざされかけた哀れなバモン君だった。
(言い方! い・い・か・た!)
フローラに潰されて違う世界が開けかけたバモン少年だった。
(あれぇ? 悪化した……?)
「……!?」
あ、向こうも気付いた。明らかにキョドってる。
(あー……うん、しょうがない、よね)
「おはようございますバモン様」
「う、あ、お、おはよう……フローレンシア嬢」
おお、ガタイは大きいしガキ大将感が凄かったが、今の落ち着いた? 怯えてる? 彼なら好青年てかんじじゃないのかい? 喪女さんや。
(そうねぇ、顔の作りは結構整って……って何言わせんの!)
「昨日は、その、申し訳ありませんでした」
「ななな、何のことだ! 俺達の間には何もなかった! うん! そうだ! 何もなかった! そうだよ、な!?」
(あー……ははーん? なるほど? なかったことにってやつなのね?)
「ええ、そうですわね。何もなかった……間違いないですわ。
では昨日挨拶をしそびれましたので改めて。クロード男爵家が長女、フローレンシア・クロードと申します。どうぞ気軽にフローラ、とお呼びください」
「……!!」
「……? どうかなさいまして?」
「あ、いや、すまん。何でもない。俺はグラジアス男爵家が嫡子、バモン・グラジアスだ」
多分普通の貴族の令嬢っぽい挨拶に戸惑ったのだな。
(だとしても黙っとけこんちくしょー)
「しばらくの間どうぞよろしくお願いしますわね、バモン様」
「ああ……こちらこそよろしくだ、フローラ嬢」
何とか関係を正常化できたな。って、そういえばこの前何を話しかけてきたんだ? この坊っちゃん。
(そういえばそうね? 聞いてみましょうか)
「バモン様、先日『何もなかった』その少し前、何か私に御用がお有りだったのでは?」
「!? あ、いや……。他の面々は俺の知った顔であったのだが、お前は見かけなかった故、声をかけるつもりだったのだが」
見事に無視された上に、股間へのクリティカルヒットの置土産か。なんと不憫な。
(ふぐぅっ!?)
「お、おほほ、それは気が利きませんで……本当に、申し訳、ありませんでした……」
「あいや『何もなかった』のだから誰も何も悪くない! そうであろう!? フローラ嬢!」
「……はい、そうですわね。バモン様はお優しいんですね」
「ぬぅ!? ……調子が狂うな、君は」
「はい?」
「いや、何でも無い。所でフローラ嬢の家はザルツナー辺境伯家の騎士家の出とか?」
「は……い、そうですね。お祖父様の留守を狙った侵攻を防いだ武勲を認められ、男爵へと叙爵賜りました」
「であるならば、ベティ! こっちへ!」
「……何か用? バミー」
「バミーはやめろ、バミーは。もう子供ではない」
「お姉様方が絶対拒否するわよ」
「……せめて顔馴染み位はやめてくれないか」
(どういう流れー?)
わからん。見た目は小学生か、と言わんばかりの小ささに、ゆるくウェーブして広がりをもつ黒の長髪で茶目の少女。資料にはモブの情報はないし、お前が居ない間に教室で聞いたこととかは漏らすわけにもいかん。
(ケーチ)
はいはい、ケチですよー。
「しょうがない。で?」
「お前の好きな鬼将軍の孫娘殿だ」
「知ってた。ちょっとばかり調子に乗った男子に対するその所業も鬼ち……」
「何も! 無かった! と言っているだろうが!」
「の所業……はいはい、分かりました。でも残念。私が好きなのは鬼将軍のおじさまであって、非力……はちょっと疑問が残るけど、女の子に興味はない」
早速非力のカテゴリから外されたな。ジジ専?
(かなぁ? お祖父様はお祖母様一筋だから応援できないかなぁ……。あとうっさいよ)
「フローラ嬢と仲良くしておけば、今は引退して皇都に隠居されてるかの将軍や、ハトラー子爵領襲撃事件で叙爵賜ったクロード男爵ともお近づきになる機会があるかも知れんぞ」
「はじめましてフローレンシア様。私、エリザベス・パルクロワと申します。以後お見知りおきを。どうぞベティと及び下さいませ。何時でもお誘い下さいませね。待ってます!」
「ひぁっ!? はい……よろしくお願いします」
(なっ、何この子!?)
急に態度をころっと変えて、詰め寄ってきたエリザベス嬢。そいや、父上殿にも反応してたよな?
「こいつは女でありながら兵法に明るい……と言うか、根っからの軍人オタクでな。普段軍記物の書ばかり読みふけっている。なものだから皇国軍でも特に有名な人物に憧れているんだ」
(あー、あの誰とも交わらず本ばかり読んでた子かー)
濃いのが居たもんだな。
「では改めまして、フローレンシア・クロードと申します。フローラとお呼び下さいね、ベティ様」
「はい、フローラ様」
おほほほほーうふふふふーって文字が後ろに見えそうな光景だな。
(まぁ実際そうだしね。貴族だもの)
「ベティ、メイリアも紹介してやってくれ」
「えー? めんどい」
「おまっ……。う゛っうん! バトス卿の手記の写し……」
「紹介させて頂きます!」
またしても豹変したことからバトス卿ってのは軍人かね。
(フローレンシアの記憶によれば、100人の手勢で1万の敵軍を退けた大英雄ね。川を氾濫させて撃退したらしいわ)
逆呂布か。
「あー……でもあんたは」
「ああ、分かってる。フローラ嬢、俺はここで失礼する」
「あ、はい。それではまた、ごきげんよう」
バモン君は軽く頷いて離れていく。何かあったのかね?
「バモンが前、乱暴者だったのは知ってますわよね?」
「はい、そのことは。あと、ベティ様? どうぞ私と話す時は崩してくださって結構ですよ」
「そぉ? じゃ、フローラ。あ、フローラで良い? あんたも砕けて頂戴よ。うちだけじゃちょっと、ね」
「ふふ、わかった。といっても、ベティ? 貴女ほどには中々砕けられないわ」
「おっけー。で、バモンが乱暴者だった頃、あいつの短気が原因……とまでは言えないんだけど、とにかくメイリアは怪我したことがあったのよね」
「ほうほう」
「もちろん大問題になりそうだったんだけど、メイリアが頑なにバモンの関与を否定したのよ。あいつとよくつるんでた子供たちは皆見てるってのに。
結局、絶対に認めようとしないメイリアに周りの大人たちが折れて、お咎め無しになったけど……」
「二人の間にはしこりが残った、と」
「そゆこと。ま、とにかく紹介はするわね」
………
……
…
「メイリアー」
そう声をかけられた少女はビクッと肩を震わす。大きな黒目に色の薄いブロンドの少女。どこかの生贄に捧げられるために育てられる犬種を彷彿とさせるな。
(わかりにくい例えねぇ。てか、この子、人見知りが激しそうな子……)
奇しくも売れ残り組が一同に介したわけか。
(その言い方だと、お相手見つけられませんでした組に聞こえるわぁ!?)
その可能性高そうだろ? このメンツ。
(ぐぬぬ……。め、メイリア様はまだわからないもん)
ロビー活動できないのにぃ?
等と軽口を脳内で言い合ってる間にメイリア嬢はもう目の前だ。
「メイリア、挨拶」
「ちょっと、ベティってば……」
「あ、いえ、大丈夫……です。ベティは……いつも……こんなだから。
改めて……はじめまして……メイリア・シュトーレンと……申します」
所々詰まりながらも挨拶してくれたメイリア嬢はしかし、一度も視線が合うことがなかった。
「ありがとうございますメイリア様。こちらも改めてまして、フローレンシア・クロードと申します。どうぞフローラとお呼び下さい。
ベティとはもう砕けた間なので、メイリア様もどうか砕けてください」
そう言ったものの、多分砕けた会話は期待出来ないんだろうなぁ、と思ったフローラだった。
………
……
…
まだ二日目の学院生活は、学業の方も様子見と言ったところだった。……一人を除いては。
(うう、メアラ先生、怖い……)
それ以外は取り立てて何があったともない今日も、一応平和だったなぁと思ったフローラだったのだが、思いもかけない人物から「放課後に時間をとってほしい」と誘いを受ける。
「……時間を、取って頂き、ありがとう、ございます、フローラ様」
「いいえ構わないわ。紹介されたときにも言ったけど、砕けた口調で話しかけてくれていいわよ?」
そういったフローラの目を、ただただ無言でちらちら見るメイリア嬢。
(まいったなー。この子が何を考えてるのかさっぱりわからないのよね)
「フローラ様、に、お聞きしたい、ことが、あります」
フローラは何を言っても望んだ対応が帰ってこないことにため息を吐きつつ返した。
「なぁに? 答えれることなら答えるわよ?」
が、しかし、その質問は予想を遥かに越えたものだった。
「貴女は何者ですか?」
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