絡まない思い

「どっどど、どういう意味かなぁ?」


 精一杯の演技でとぼけてみせようとするフローラだったがとんだ大根である。


「とぼけないで下さい。場合によっては告発も視野に入れて準備してきてるんです」


 との真剣なメイリア嬢の言葉と視線に言葉を詰まらせる。余程の覚悟なのだろう、いつものおどおどした小動物然とした様子は見られない。


「えっとね? 本当にどういう意味か、ってのを聞きたいの。どうしてそんな疑問をぶつけたくなったのか、ね」


「私は……人の魂の形みたいなものが見えるんです」


(魂の形!? あれか! 人見の眼!)


 人見の眼。これは本来魔力保有量の高い人物にまれに見られる魔眼の一種で、発現させようとして発言する類の物ではない、by公式ブック。


(あんた便利ね! 私も読みたいそれ!)


 キョドリコさんにはお金貰っても教えません。


(ぐぬぬ……お金なんて要らないくせに……)


 でも、とういことはキョドリコさんの姿がメイリア嬢の目にはどう映ってるんだろうね?


(あ、そうだわね)

「メイリア様? 貴女の目には私はどういう感じで映ってるんですか?」


「え? ……あ、あの、お気を悪くしないで、聞いて、欲しいです、が」


「はい」

(なんでいきなりキョドり戻った??)


「ばさばさの、黒い髪に、少し色の濃い肌、見慣れない、ダボついた上下の服に、形のよろしくない度の強い眼鏡、です。あと、なんだか、くたびれた表情の40代? 位の女性……です?」


「誰が40代かぁ! 死んだ時は30前半だったわ!」


「ひあう! ご、ごめんなさい」


「あ……ごめんなさい、取り乱したわ」


「い、いえ………………死んだ時?」


 ……! ……!? ……!!


(声もなく痙攣するかのように爆笑してんじゃないわよ!)


 ひぁ、ひーいっひっひ……はぁ。どんまい! くたびれ中年女性さん!


(……いつか踏みにじって擦り潰す)


 表現が悪化したなぁおい!


「メイリア様」


「ひっ! ……はい」


「その目、どなたの姿も別の姿に映るんですの?」


「あ、いえ見えるとは言いましたが能力は低く……。普段は、色で、感情が、見える、程度なんです。余程波長の、合う人でないと……」


「ほほう……ん? え? てことはメイリア様と私の波長は近いの?」


「(コクリ)」


「んー……あー、そっかー。んー……。メイリア様」


「はひっ!」


「私ね、他の世界で死んだ記憶をまるごと持つ、いわばこの世界に転生した人間なの」


「……そ」


 んなばかな! とか?


(んな嘘ではごまかされません! とかだったりしたら凹むわぁ)


「そうだったんですね!」


 おおぅ? まさかの好感触!


「道理で何と言うか、他の人には見えない色々なものを持ってらっしゃると思ってたんです!」


(どゆことー? この子いきなりすごい食いつきだわ)

「えっと? さっきまでの懐疑的モードから一転、この高好感度モードへの切り替わりは一体……?」


「ふふふ、実はですね。直に話してみて分かったことなのですが、フローラ様の中の人は言ってることと表情にまるで齟齬がなかったんですよ」


「齟齬?」


「はい。ベティやバミー……あいえ、バモン君とかは違うのですが、殆どの人の言ってることと内面とでは、まるで違うことが多いんです。敵意や軽蔑を示す色を表しながらにこやかに近づいてくる令嬢等は怖くて……」


「なるほどね。分からなくはないけど……って、中身の見えてる貴女からすると、私は単純ってこと!?」


「そこまでは言いませんけど……そうですね、そうかもです」


「ぐぬぬ……」


 単純中年さん、乙。


(ギリッ)

「で、ではこれで私への疑念は晴れた、と思って良いのかな?」


「はい。良からぬことを隠してる人かと思ってましたので……色々失礼なことを申しましたが、これから仲良くしてくださいますか?」


「うん、それは大丈夫。だって色々知られちゃったしね。

 あ、ついでに聞きたいんだけどさ。何でバモン君を避けてるの?」


 この問には表情を曇らせてうつむくメイリア嬢。


「私が、というより、私を、バモン君が、避けてる、ですね。

 私が大怪我をしたあの時の事故、確かにきっかけはバモン君でした。バモン君が皆を引き連れ、近くの森に突撃した事が始まりです。

 でも大怪我を負ったのは、バモン君と仲の良かった私を突き飛ばした他の子のせいです。あの子はバモン君が皆のリーダー的立ち位置だったのを根に持ってましたから」


「酷い話ね……。でもそれならそのことを告発すれば良かったんじゃないの?」


「怪我から目覚めた頃にはその子はもう居なくなってました。何でも親が手を出した事業に失敗したとかで」


 おい、これってもしかしてアレじゃね?


(……もしかして? お姉様方の仕業、ってこと? だとしたら恐怖しかねえ!?)

「へ、へー。じゃあ、バモン君が離れた理由には心当たりは?」


「多分、私を守るためかと……。バモン君優しいから。それに割と慎重で、相手をちゃんと見極めてから交友関係結ぶんです。フローラ様の時は大失敗でしたけど」


 と言いながらクスリとわらうメイリア嬢は……可愛らしいかった。


(花が咲くように笑うってこういうことよね。……もしかしてメイリア嬢って)

「バモン君が好きなの?」


「ふえぁあぁっ!? はぁぅ……(ぷしゅー)」


 ビンゴだな。


(うふふ、初々しいわぁー。って、駄目じゃん!? メイリア嬢の最大の障害が私って!?)


 人の恋路を邪魔する喪女は、ストーカーに刺されてしまえばいいと思います。


(やめて!? 予定外の人がストーカー化するとか! 元より洒落にならないってのに!)

「あのね、えっと、メイリア様?」


「メイリア、と呼んでください。私もフローラ、と」


「ああ、うん。わかった。メイリア。下手すると貴女の恋の最大の障害が私かも知れないわ」


「そう、ですね……。バモン君が決めることですから、私は……」


「駄目よ! 好きならせめてちゃんと好きって言わないと!」


「ふぇえ!?」


「好きって言えずに別の人と結ばれて……結果不幸になったなら、後悔しか残らないわ。ならせめて今の貴方の気持ちにケリをつけてあげなさい!」


「え、えっと、蹴り上げるんです?」


 バモン君の股間危うし!


「そのケリじゃない! 決着!」


「は、はい!」



 ………

 ……

 …



 フローラがメイリア嬢と親交を深めている間、バモン君といえば……。


「ひぃっ!? な、なにか、こう、キュッ! ってなったのは何故だ??」


「バミー? まだ痛むの?」


「バミーはもうやめてくれよ姉さん!」


「バミーは私のこと、キライ?」


「その質問は卑怯だよ姉さん……。俺は家族の誰をも嫌いになったりしないよ」


「うふふ、そうよねー。……ね、バミー? メイリアちゃんとは仲直りしたの?」


「……その話はやめてくれないか? 俺のせいでメイリアを危険に晒したんだ」


「責任を取る、って手もあったのよ?」


「あいつの意思を無視した婚約などありえない」


「……もしかして他に気になる子でもできた?」


「んなっ!? ……気になる、わけではないと思う」


「んん?? ほー? ふーん? へー??」


「なな、なんだよ!」


「もう、うちの可愛いバミーったら、青春しちゃってもう! お姉ちゃん嬉しい!」


「何で姉さんが嬉しいんだよ!」


「姉さん達に良い土産話ができたわぁ」


「本気でやめて!?」


「でも、だとすると妙な性癖ねぇ」


「何言ってんの!?」


「だって、蹴られて気付いた何とやら、じゃないの?」


「そんな所に惹かれた覚えはない!」


「じゃあ、どこなのー? お姉ちゃんに教えてみ? ん??」


「あうう……」


 等という、弟いじりなる姉弟イチャコラを展開してるとは主人公殿は思ってもみまい。



 ………

 ……

 …



 何せ、


「私はメイリアの味方だからね!」


「は、はい! 頼りにしてます!」


 等とやってるのだから……。




<余談>


(メイリアってば可愛いわねぇ)


 そうだなー。優良物件を手放しで明け渡す位には気に入ったようだしなー。


(優良物件……って何のこと?)


 あれ? 気付いてないの? バモン君、超優良物件よ?


(……? どゆこと?)


 顔は整ってるし、ガタイも大きく男らしい。唯一の欠点は、怖い怖い怖い怖いお姉様方がついてること。


(怖いが多い! ……ふむ、でもまぁ確かに。悪くはない。でも優良物件はともかく『超』はどっからきたの?)


 ゲームのイベントがこれから起きていくわけだが、その前に婚約者が出来ていたらお前も安泰だったろうになぁ。きっかけはきん……何だったにしろ、下手すれば嫁にもらってくれる未来が確約されるところだったんだから。


(ああ、なるほど。仮に相手に気にられてしまっても、既に婚約者という盾があ……るぅえええ!?)


 ようやく思い出したようだな、自分の立場を。


(ああ……あ、私もしかして?)


 死亡フラグ回避チャレンジ……


(ドキドキ)


 ……失敗です。


(ぎゃあああああ!!)


 いやあからさまに失敗してんのに、お前がドキドキできる理由がわかんねえ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る