第6話 異変
翌日、別棟にある医局が、朝から騒然となっていた。
害虫駆除がどうの。
食中毒がどうの。
仲のいい医師たち同士で、それぞれ噂して話をしている。
しかし、誰も動こうとしない。特に要請がない以上、医師が率先してすることではない。皆、そう考えているのだろう。ややもすると、自分やるべきことを行っていた。
「先生? 石田先生? 昨日、異常死みたんですよね? あれ、すごいことになったみたいですよ?」
異常死? あの青年の事か?
人の診断にケチをつける、にやけた顔の嫌な男。同じ救急医でも、もともと馬が合わない奴なだけに、その言葉は頭にくる。
「なんのことですか?」
だが、ここで口論しても意味はない。ここはとぼけてやり過ごすに限る。正直話すのも嫌だった。
「先生が昨日みた
いやに、もったいぶった言い方だった。しかし、家族が倒れる原因がわからない。昨夜は父親がまだ来ていないということで、明け方まで霊安室で過ごすことになっていた事は知っている。
「家族は今、どうしてるんですか?」
ここで聞いても始まらないが、何か知っていることを隠している気がしてならなかった。
「全員明け方に亡くなったようです。血を吐いて。異常死として警察も来てます。すでに帰りましたけどね」
目の前が真っ暗になる感じがした。
一体何がおこった?
もはやこの男からは何も聞けまい。にやけた顔が伝えたいことを知りたいとは思わない。
だが、あの後何が起きたかは気になってしまう。そして、状況を知るのは、看護師が一番だ。
医局を飛び出し、救急外来へ急ぐ。
途中何人かすれ違うが、皆青い顔をして気持ち悪そうな感じだった。
何が起きた? いや、起きている?
それ以上考えてもわからない。ただ、昨日申し送った当直医もまだいるはずだし、外来看護師もいるはずだ。だから、迷わずそこに向かう。
しかし、いつものその場所には誰もいない。
救急初療室か?
そう思い、そこに向かう。だが、すぐそこにあるはずのその部屋が、やけに遠く感じていた。
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