第5話 結論

 そのドリームランドは、ある製薬メーカーの工場跡地に作られたものだった。広大な敷地には、様々なアトラクションがあり、とても人気がある場所になっていた。


 なかでも、ジェットコースターの人気はダントツで、一番の人気アトラクションだということだった。しかし、ドリームランドのジェットコースターは、たびたび電気系のトラブルで運休することが多いということでも有名だった。


 だから、ジェットコースターに乗れるのは割と運がいい方だという噂まであった。


 しかし、その噂には尾ひれがついて、はっきりしない事故の噂にもなっていた。ただ、実際には電気系統のトラブルなので、それは事件にも事故にもなっていない。


 しかし、面白半分で運休している現場を事故としてネットに流す者がいるようだった。もしかすると、それは乗れなかったことへの腹いせなのかもしれない。


 とにかく、そういう事がたびたび起きているとのことだった。


 遊園地なんて、子供のもの。そういう価値観で生きてきた。まして、私に今のアトラクションの価値がわかるはずもない。


 しかし、乗れなかった悔しさを、そういうところで解消するのか……。

 八つ当たりに近い感情で、事故として噂される遊園地側に同情する。


「でもね、先生。あの遊園地、実際食中毒もだしているし、あながちしっかりしていると言えないかもしれませんよ?」


 私の心を見透かしたのか? その看護師は最後にそう言って、診察室から出ていった。






 だが、やはりわからない事だらけだった。


 確かに、何が起こったのだろう。ただ、どう考えても、答えはここから得られそうにない。ならば、直接体に聞くしかないだろう。


 そろそろ、家族も落ち着きを見せるころだろう。


 状況からいうと、やはりこれは異常死と考える。そうなると、確認しておく必要があった。



 再び看護師を呼び、死亡時画像診断の必要性を告げる。

 落ち着いてきた家族の説明と同意もとって、CTにかけてみて私はその事実に驚きを隠せなかった。



「先生……? なんですか……? これ……」


 看護師の疑問に、私は答えるすべを持たなかった。

 そこにはあるはずの物が無くなって、別の場所には本来ないものが映っていた。


「わからん……。ただ、十二指腸のこの部分からの出血だろうね」


 腹部にある、正体不明の三センチメートルほどの塊。


 大小はあるが、それはひとつではなく大量にある。


 虫の卵? いや、でかすぎる。それに、そんなことがあるはずがない。


 当初、それが虫の卵に思えたのは、最初の話を聞いていたからだろう。だが、腹腔内にこれだけの卵を宿している人なんて、現実にありえなかった。


 ばかばかしい。『下手の考え休むに似たり』だ。


 十二指腸壁欠損部位は、瘢痕化した部分と一致している。

 過去の潰瘍部分からの再出血。


 ストレスはあるとのことだった。調子がいいのは、過去の薬を飲んでいたからだろう。


 それとも絶叫系マシンにのったストレスか? その原因については明言できない。

 いずれにせよ、元々の潰瘍部位も悪かった。




 比較的太い血管の上にあった潰瘍。瘢痕化していたとはいえ、そこに潰瘍ができていた。そして、そこからの出血が止まらなかった。状況的にはそれが一番納得がいく。


 ただ、それまで表立って症状がなかったことが不思議だが、単に彼が言ってなかった可能性もある。そして、最終的には出血性ショックとして見ていいだろう。


 吐き出した塊と体内にある無数の塊のようなものは気になるが、ここでは剖検ができないからこれ以上はどうしようもない。

ただ、おおよその死因は推定できた。だから、これ以上彼の家族にも負担をかけない方がいいだろう。


 死亡診断書に必要事項を書き、家族に死因の説明を行う。ここから先は、もう私の出番はない。


 全てを終えた後、やはり何か引っかかりもあったが、これ以上考えても仕方がなかった。

 もう勤務も当直に引き継ぐ時間。


 私は最後にそう判断し、帰宅した。

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