第4話 違和感
本人も気が付かない事を改めて聞くと、新たな発見があることがある。いつもの診察で、たまにある違和感。これに似た感覚が、私の中で蠢いている。
「その他に、何か気になることはありましたか? その、最初に吐いたものはなんだかわかりましたか?」
できるだけ丁寧に聞いておかないと、あとでこの子は自分を責めるようになる。これはどうしようもなかったことだと、この子自身にも納得できる事を説明する必要がある。それができなければ、家族のやり場のない怒りの矛先が、もしかすると彼女に向かうかもしれない。
「いえ……。最初に吐いた時に、黒い塊がありました……。でも、それ以外はなにも……」
そこで泣き崩れた彼女の肩に、看護師がそっと手を当てる。そこには『これ以上は難しい』と言わんばかりの顔があった。
黒い塊? 凝血塊か?
ただ、これ以上は確かに彼女に負担がかかるのだろう。看護師の無言の圧力にも、そろそろ耐えられなくなってきた。
いったん整理するためにも、一度終わることにした。
「ありがとうございます。つらいことをお聞きして申し訳ありません。彼の身に何が起こったのか、まだ確証が持てなくて……。色々お聞きすることで、何かお伝えできればと……」
頭を下げてから、看護師に目配せをする。頷いた看護師は、慣れた様子で彼女を連れて出ていく。
そう、ここから先は彼女たちの領域。共感という力は、実に色々な事を浮き彫りにする。
そして、しばらくして戻った看護師は、自分の知っている事と知りえた事を私に告げる。
それは間違いなく私にとって、全く知らないことだらけだった。
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