第14話 破壊-(14)

「とった!」

 

 禍神との邂逅から幾月。

 蝉時雨が降り注ぎ、青葉が茂る季節。ユキムラと白蓮は草原で虫捕りをしていた。

 バッタを捕まえ、返しのついた竹で編んだ籠に放る。その中にはすでにうごめく複数の虫。これを後で火で炙り、食べるのだ。


「うわあ。全然捕まらない……」


 次々と虫を放るユキムラとは対照的に、白蓮はてんで上手くいかない。

 彼女は超のつく運動音痴であり、殊に採集の類は苦手としていた。


「しっかりしろよ。罠師の娘だろ?」

「そ、そんなこと言われたって……。別に私は罠師じゃないもん!」

「それもそうだ」

 

 不満げに口を尖らせながら、虫を探す白蓮。

 ユキムラはその背後にそっと忍び寄り、頭に何かを置いた。


「? どうしたの?」

「いや、なんでも」

 

 くしし、と悪戯っぽく笑うユキムラを不審に思い、白蓮は何気なく頭を払った。

 すると丸々と太ったバッタが元気よく飛び跳ねる。「ぎゃッ!」という悲鳴とともに、白蓮は青ざめた。


「ユキムラのバカ‼」

「ごめんごめん」


 ぽかすかと胸のあたりを殴ってくる白蓮。本気ではないのもあるだろうが、あまりに非力で、まったくと言っていいほど痛くなかった。自分の攻撃が効いていないことに気付くと、白蓮は拗ねたように頬を膨らませる。

 

 そんな他愛のないやり取りをしつつ、虫捕りを続けていると、くさむらの陰に何かがいるのを認めた。

 

 山狗やまいぬ。それも子どもだ。

 しきりに足元を嗅ぎ、その場を離れようとしない。

 不審に思って近づいてみると、その視線の先に死骸があった。おそらく子狗の親だろう。

 まだ死んで間もないと見える。目立った外傷は無かったが、異臭がした。

 病気か、何か。いずれにせよ幼い我が子を残し朽ちるというのは、同情に値した。


「可哀想に」

 

 ユキムラは痩せ細った汚い子狗を、憐憫の籠った目で見つめる。


「どうする? この子、たぶん長く生きられないよ」

「そうだろうな」

 

 親を失ったこの子狗が、厳しい自然界で生き延びられる可能性は低い。鳥や蛇などに捕まって、たちまち食われてしまうに違いない。


「どうせ生きられないなら、俺たちで食うか?」

「でも、食べられるところ少なそう……」

「たしかに」

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