第15話 破壊-(15)

 結論の出ないまま、沈黙が続く。

 事も無げに、そっと子狗を撫でた。

 弱っているのか、吠えることも、逃げ出すことも、暴れることもしなかった。その様子を見て、ぼうっとする白蓮。


「どうした? 大丈夫か?」

「ん。ああ、いや。この子も見えてるのかなって」

「見えてるって? 何が?」


 白蓮は柄にもなく悲哀に声を震わせ、しかしつとめて毅然とした表情でこう言った。


「巨大なもの」

「なんだそりゃ」

「悲しいことが起こった時、そしてそれがしばらく続くのだと悟った時ね。悲しいとかそれ以上に、私はその後ろに何か巨大なものを感じるの」

 

 白蓮が言わんとしていることは部分的には理解できた。

 だが、ユキムラにとって難しい話には変わりない。


「よく分かんねえ。悲しいことがあったら、悲しい。それだけじゃないってか?」

「はは。まあ、そうだよね」

 

 あまりに彼女らしくない発言なので、さすがのユキムラもその腹の内を勘繰った。


「なんかあったのか」

 

 ユキムラの問いに、白蓮は迷いを見せた。

「あ、えっと、その」と言葉を詰まらせ、視線を泳がせる。これほど露骨に隠し事をして、動揺するというのは前代未聞だったので、ユキムラの興味は俄然そちらに向いた。

 ほどなくして隠し通すのは無理だと結論付けたのか、きゅっと唇を噛み締め、白蓮は告白する。


「実は私、八雲と結婚させられそう……っていうか」

「は?」

 

 まさに青天の霹靂だ。

 白蓮と八雲が結婚とは、想像だにしなかった。おそらく、父親同士が勝手に話を取りまとめたのだろう。結婚沙汰に、本人の意思を介さないことはままあるが……。


「お、俺らまだ八つだぞ」

「うん。だから、まだまだ先の話なんだけど」

 

 いくら何でも先すぎやしないか、とユキムラは絶句した。

 だが、白蓮の父親が娘を滋道のところに嫁がせたい気持ちは充分に分かる。なにせ村一番の富豪だ。そういう話が出たら、無碍に断るわけにはいかない。候補が何人もいるならば、焦りもするだろう。

 

 ユキムラの胸中にわだかまる、締め付けるような鈍い痛み。

 それは最早痛みといって差し支えのないものだった。どうしてこんなに苦しくなるのか不思議に思いつつも、何とか声を絞る。


「……良い話じゃないか。なんで悲しむんだ」

 

 それを聞いた白蓮は、切なげに嗤う。


「分からないか……。分からないよね……」

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