第12話 破壊-(12)

「ユキムラ。お前、絶対に帰天師なんかにはなるなよ」


 考え込んでいると、マサユキははっきりとした口調でそう言った。

 ユキムラは吃驚びっくりし、思わず父親の顔を見上げる。前髪で隠れているせいで表情はよく分からなかったが、心なしか悲しんでいるように見えた。


「俺は帰天師にはならないよ。でも、なんでだ? なんでそこまで……」

「帰天師ほど、下らない職業はないからだ」

 

 ユキムラは困惑した。

 なる気はないといえど、帰天師にそんな印象を抱いてはいなかったからだ。禍神を殺し、人を守る。立派な職業ではないか。なぜ、下らないと言い切るのか。


「親父は帰天師が嫌いなのか?」

「……別に嫌いじゃないさ。俺が嫌いなのは『虚しさ』だ。上り詰めた先にあるのが誉れなどではないと知った時の虚しさ。そして、自分の弱さを突きつけられた時の虚しさ」

「……?」


 まくしたてられ、眉を顰めるユキムラ。


「……少し、喋りすぎたな。酒が回ってらあ」


 そう言うと、マサユキはくるりと踵を返す。


「家に帰るんじゃないのかよ」

「気が変わった。酔いを醒ましてくる」


 マサユキはユキムラとは真反対の方向に歩き出した。

 徐々に小さくなっていく父の背中。それに向かって何か叫ぼうと思ったが、言葉がうまく出てこなかった。


 もう完全に姿が見えなくなった折に、ふと御光様について尋ね忘れたことを思い出す。

 もし仮に、本当に御光様が危険な禍神であったら。どうして父はこの村に居続けようとするのだろう。原因を壊すことはできなくとも、逃げ隠れることは可能のはずだ。自分の命が、家族の命が惜しくはないのだろうか。


 だが、だからといって一人で逃げるという選択肢を、自分も持ち合わせていないことに気付く。

 確証が得られないから動けない。父は封印が永遠ではないと言っていた。それは明日解けるかもしれないし、一方で百年後かもしれないということだ。


「そう大事にするほどでもないのか……?」

 

 ユキムラは妙に納得しながら、夜道を歩き続けた。


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