第11話 破壊-(11)

「妄言じゃねえな。どっちかと言うと戯言だ」

「どっちでもいいです! 私、この後仕事あるんで! さよなら!」

「おいおい帰るのかよ」

「そう言われたところで、私にはどうにもできませんし。心配しなくても、この剣のことはちゃんと伝えます。音がしたのは事実なので」


 帰天師は関わるだけ時間の無駄だと判断したようだ。

 ユキムラと白蓮の顔を見ると、謝意を込めてぎこちなく笑い、そしてずかずかと社を出て行った。


「ったく、愛想の無い奴だ」

 

 がりがりと頭を搔くマサユキ。


「……親父、ここに来たのって、本当に偶々なのか?」


 ユキムラの目には、御光様の危険性を伝えるためにわざわざここに来たというふうに映った。

 自身の父がそこまで他人思いの行動をするとはにわかに信じがたかったが、ユキムラの心のどこかに断ち切れない思いがあった。完全な悪人であるとは認定しきれない気持ちだ。他人のために行動したと言う事を期待していた。だが、


「偶々だっつてんだろ」


 マサユキはひどく冷たい声音で言った。

 ユキムラは特に落胆する様子は見せず、ただ「そうか」とだけ小さく呟く。


「さ、お供えも終わったし、帰ろう白蓮」

「……うん」


 こうしてユキムラたちは御光様の社を後にした。



 ***



「……親父、どうしてついてくるんだ」

「どうしてって言われてもなあ。同じ家に住んでるし」


 すっかり日も落ちた夜道。

 白蓮と別れた後、ユキムラは家に帰らんと一意専心に歩いていた。

 その後ろから千鳥足で父がついてきたので、少し鬱陶しく感じる。


 足を止め、振り向くユキムラ。

 月光に照らされ、マサユキの胸の傷が暗がりに浮かぶ。

 ぽっかりと左胸についた傷跡。切り傷や火傷の類ではない。まるで槍にでも突かれたような、そんな傷跡だ。それを見て、ユキムラは改めて不審に思う。


「なあ親父、その傷――」


 マサユキの瞳に、刹那の迷い。


「これか? 前も言った気がするが……これは昔禍神にやられたんだよ」

 

 禍神にやられた。

 以前聞いたときはいつもの法螺だと思っていたが、今日の帰天師との会話でユキムラの胸には疑念が渦巻いていた。


 つまり、自身の父は本当に帰天師なのではないかという疑念だ。

 尋ねたところで確証は得られない。だから実際に尋ねるようなことは今更しないが、小骨が喉に引っかかっているような気持ち悪さは依然としてあった。

 

 帰天師ならば、どうして父はこんな村にいるのだろう。まだまだ戦える年齢のはずだ。四肢の欠損などもない。なのに、どうして――。

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