第7話 破壊-(7)
「まあ、それはさておき。少年、覚えておくといい。禍神は心臓を斬らない限り、いくらでも再生する。こいつらは僕たちとは成り立ちが違うんだ」
ユキムラにとって、その情報は初耳だった。
心臓を斬られない限り死なないとは、おおよそこの世の生き物とは思えない。そのような生き物がいるとは想像したこともなかった。
「逆に言えば、心臓さえ斬れたら死ぬってことですか?」
「そうそう。禍神は心臓が弱点なんだ。奴らがどれだけ強くなってもね」
男の帰天師はじっとユキムラを観察する。
「やっぱり君、帰天師の素質あるんじゃないかな。一番弱い階級だったとはいえ、禍神に立ち向かうだなんて普通はできないだろうし」
褒められたこと自体は素直に嬉しかった。
だが、ユキムラに帰天師になるという選択肢はない。以前、少しだけ憧れた時期もあったが、現実を直視するうちにその思いは霧散した。父親の評判がそれに拍車をかけたのは言うまでもないだろう。ただ、そのことは無意識のうちに伏せ、
「俺はこの村で米作って静かに暮らします。弟妹もできることだし、離れるわけにはいきません」
「……そうか。残念だが、しょうがないな」
静かに、真面目に暮らす。そして、長男としての責務を全うする。それだけがユキムラの望みだった。自由奔放に生き、やりたいことを職にするなどもっての外。父親から反面教師的に学んだ教訓だ。
「あ、あの帰天師様。よろしければお食事などの用意ができますが……如何なされます?」
話の切れ目に、ここぞとばかりに滋道はごまを擦る。だが、
「お気持ちはありがたいですが、私たち食事は済ませちゃってて……。それに、あまりじっとするのは好きじゃないんです」
と提案は丁寧に拒否されてしまった。笑顔で取り繕っているが、その腹の内は黒い感情で溢れているのだろう。それ以降、滋道が口を開くことはなかった。
「セイヤは後処理お願い。遅れた罰として」
女の帰天師が、一方的に禍神の死骸の処理を押し付ける。男の帰天師は何か言いたげだったが、最終的には渋々と頷いた。
「さ、処理が終わるまでは暇ね。君、この村って何かあったりする?」
「特に何もない、田んぼばかりの村ですが……あるとすればお社くらいしか……」
「? 何それ。ちょっと興味あるわね」
「よかったら案内しましょうか。俺、ちょうどそこに向かっていたところなので」
「うーん。じゃあ、お願いしようかな」
「わ、私も行くよ」
白蓮は供物を手に持って、おずおずと名乗り出る。
「そうだな。では、ついてきてください」
こうしてユキムラ、女の帰天師、白蓮の三人で御光様の社に向かうことになった。
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