第4話 破壊-(4)
ユキムラは斜面の側まで禍神を誘導する。
限界までひきつけ、飛び掛かってきたところで加速。背後に回って、そのまま一気に斜面を駆け上がった。
藪の中に姿をくらますユキムラ。視界から外れたことで、禍神の動きが一瞬止まる。
「おらあああああああああッ‼」
刹那、斜面から大岩が転がり落ちてくる。
ユキムラが一思いに落としたのだ。彼はこの場所に大岩があることを事前に知っていた。この真下まで誘導できれば、潰せるという確信があった。
大岩はぐんぐん加速し、禍神に一直線に向かう。
そして目論見通り、禍神の大きく膨れ上がった腹に直撃した。
ぐしゃり。
思わず耳を塞ぎたくなるような凄惨な音が響き渡り、やがて禍神は動かなくなった。
「はあッ……はあッ……」
ユキムラは肩で息をしながら、斜面を下る。
(やった……のか?)
嬉しいような、そうでもないような、複雑な気持ち。あまりに咄嗟のことだったので、思考が追いついていないというのが正直なところだった。
ただ、徒労感が広がり、早く横になりたいという欲求で胸が満たされる。
禍神の横を通った時、鮮血の匂いが鼻孔をくすぐった。気分が悪くなったが、唾を飲み込み、何とか我慢する。
禍神はこの世の生き物ではないと教えられたが、実際に間近で見てみると他の生き物とあまり変わらないように思えた。骨があり、肉があり、血がある。コイツらと自分たちは、果たして何が違うというのだろうか。
(まあ、どうでもいいか、そんなこと。しかし、運が良かったな)
大岩が無かったら、勝てたかどうか怪しい。
大人数人がかりで抑え込めば、もしかしたら勝てたかもしれないと思っていたが、充分に集まるまでに自分の体力は尽きていただろう。
我ながら無茶なことをした、と内心反省した。
拓けたところまで戻ると、同時に白蓮が数人の大人を引き連れて駆け寄ってきた。
中には八雲の父親もいる。その姿を見て、ユキムラは少し眉を寄せた。
「ユキムラ、大丈夫⁉」
白蓮はユキムラが無傷であることを認めると、安堵したように胸を撫で下ろした。
「まったく、無茶して……怪我は無いみたいだからいいけどさ……」
「そうだな。心配してくれてありがとう」
「それで、禍神はどうした?」
大人の中の一人が尋ねる。
「禍神ならあそこで潰れてるよ」
ユキムラが指さした方向には大岩があり、その下に血溜まりのようなものが見えた。
猫の顔に蜘蛛のような体。噂通り、たしかに異形だ。大人たちはそのことを確認すると、そろってユキムラの勇気を称えた。
「すごいじゃないか。禍神を倒した子供なんて聞いたことないぞ」
「親父はアレだが、お前はやれるんだな。見直した」
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