栄光の左遷
私は貧乏男爵家の第三子として生まれました。
祖父の代までは侯爵だったらしく、屋敷の敷地は無駄に広い。
父曰く、祖父はめんどくさい事から解放された〜と喜んでいたそうな…
唯一の救いは歴代の領主が善政を敷き、領民に慕われていたことだった
広い庭はかつての面影はなく家庭菜園になっていた。
屋敷のダイニングは食堂として解放し、図書室は学問所として使用。
中央貴族からは貴族らしくない田舎者っと、嘲笑されているようだがそんなの知らん!
剣を握る時間があるならクワで畑を耕していたい!
自称虚弱な第一子の兄は王宮で人脈を広げた。弱みを握って…
自称淑女の第二子の姉は宮仕えしていた。騎士として…
兄よ…虚弱ならうさぎ狩に行くな!なんで1時間で10匹も狩れる!
ついでの様に王家から追放された王女殿下を拾って来るな!
姉よ…淑女なら騎士団長をボコボコにする!騎士10人抜きの上で団長にタイマンを申し込むな!
あと、ボコボコした騎士団団長を連れて帰ってくるな!
王宮で恐れられた兄と姉は実家に戻され、貧乏男爵家の第三子の私がなぜか宮仕えをする事になった。
あの〜、今は麦の収穫で忙しいんだけど。
「拝啓父上
いよいよ夏本番を迎え、より一層ご隆盛のこととお喜び申し上げます。
領民の方々は変わりなくお過ごしでしょうか。
お義姉様のご妊娠おめでとうございます。懐妊祝いに王都で人気の布地を送ります。
王都での仕事も一年経ちました。月日の流れは早いものです。
父上の話しでは下働きとの事ですが、不幸な事に三等書記官に出世する事になりました。
出世早々に左遷されて、上司の方々の代わりに魔国に赴く事になりました。
この手紙が最後になると思います。これからも元気にお過ごしください。
追伸
今年は公共井戸の清掃の年です!掃除をお願いします。
猟師のエリク爺にたわしの手配。商店の青年部に有志を募って下さい。
後、お祖父様にも声をかけて下さい。 敬具」
魔国に行く前に過労死しそうです。処理しても減らない書類の山にげんなりして、家族に向けて遺書をしたためてみました。この意味のない書類を燃やしちゃダメですかね〜。上司に書類提出する許可を申請するための書類に決裁をもらうための書類…。
これがなければ、4分の1に減るのですが…。
確かに書記官は官僚の代わりに情報収集・情報精査・書類作成・情報操作をおこないますが、便利屋ではありません。意味不明な書類で無駄な仕事を増やさないでほしい。
明後日には魔国にドナドナされるのに終わらない。世界共通語が分からない上司や先輩方に辞書と定型文の問題集を準備をして仕事を押し付け…引き継ぎを済ませたいのですが。
そもそもの話、魔国が使っているから禁止って何を考えているのでしょうか?王国公用語なんて他国からみたら訛りの酷い方言扱いなのに…
うん。イライラするので意味のない紙切れを燃やしましょう。
「拝啓父上
今年は格別に残暑が厳しいようですが、お元気にお過ごしですか。
領民の方々は変わりなくお過ごしでしょうか。
王都を出発してひと月が経ちました。今、私は旧公国領にいます。旧公国領の領民はとても友好的に出迎えてくれます。我が領民同様に鍬や鎌を持って出迎えてくれました。懐かしさ の余りに涙が出ました。
悲しい事に伝説の聖剣を扱える勇者が生まれました。これから私は勇者と共に魔国に向かいます。この手紙が最後になると思います。これからも元気にお過ごしください。
追伸
魔王を倒した褒美に勇者と王女が結婚するとほざいていますが、まだ王都にお義姉様のご姉妹は残っていらっしゃいますか?居るようなら現騎士団の副隊長に連絡して下さい。お義兄様の部下だった人のようです。近々、副隊長の直属の部隊がそっちに行くそうです。その時に護衛の依頼をして下さい。王都のバカは共通語が分からないので共通語で手紙を書いて下さい。
敬具」
余りにバカバカしい話ですがお義姉様に確認の手紙をしたためました。頭がズキズキするので文字が踊っています。しかし、気にしません。読めればいいのです。公国領民(ここの人は自分のことを王国民と思っていない)の人と杯を交わして死にそうです。10人抜きまでは覚えていますがそれ以降の記憶がありません。さすがは鍛治で栄えた国です。聞けば勇者は公族の血筋みたいですね〜。あの聖剣(ミスリル製)を製作した伝説の一族。その腕力は山も真っ二つに割ると言われている筋肉集…炭鉱夫にして鍛治職人。だからあんな重たい剣をナイフみたいに扱えるそうです。
人柱になってしまったので明日は勇者と2人で魔国に侵入します。急にお腹が痛くなって休んじゃダメですかね〜
「拝啓父上
空は深く澄み渡り、さわやかな季節となりましたが、皆様におかれましては健やかにお過ごしのことと存じます。勇者と共に魔国に潜入してひと月になります。勇者が脳筋すぎて死にそうです。遊戯盤の基本ルールも戦術も知りません。これでは魔王に勝てません。本当に死にそうです。
仕方ないので徹夜でルールと戦術を詰め込んでいます。私がつけてた遊戯盤帳を送って下さい。
魔王と戦えるぐらいに鍛えます。
追伸
魔国の宰相が優しくて涙が出そうです。宰相も魔王に振り回されている様なので共感しています。兄上と違って知性を感じ、まさに出来る男っと言う感じです。
有能な上司の下で働きたいです。そうそう、魔国銘菓ワイバーンの卵を送ります。
敬具」
さて、教本の手配もすんだので勇者を鍛えます。勇者が伸びていますが関係ありません。まだ、基礎もできていません。寝ている暇なんてありません。今日は定石を50個覚えていただきます。魔王を倒すためです。多少の犠牲は仕方ありません。
…文句ばかり言っているので定石を100個覚えてもらいましょう。それだけ元気なら大丈夫です。
「拝啓父上
日増しに寒さが加わってまいりました。皆様とも久しくお会しておりませんが、お元気でしょうか。
魔王との激戦からひと月が経ちました。突貫でしたが魔王と戦えるまでに勇者は成長しました。誰かに褒めて貰いたいので報告します。あの後、魔王と勇者は和解を果たしました。優秀な人材を魔国…もとい湖水国に引き抜いてから、王国に侵攻する様です。
女王様からの伝言です。
「うちに来ませんか?」
だ、そうです。返事は月末までとの事です。辺境伯を叙爵すると言ってました。
追伸
宰相様にプロポーズされました。今は宰相様のご実家で女主人になるため、お義母様に家政を教えていただいています。
敬具」
おわり
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