戦う魔王
三等書記官は勇者が入城を確認した。
戦いは三日三晩続いたと報告した。
その戦いは壮絶だったと書き記した。
私が生まれた国はとても小さい国でした。
魔の森と大河を隔て大国と隣接しています。
隣接している王国は侵略国家です。周辺諸国を次々に侵略をして大国になった歴史があります。
何故この国が侵略されていないか?
そんなの簡単です。私の国はとても貧しいのです。貧しいのに侵略が大変だからです。
北の魔の森と東側から南に向かって流れる大河を超えてまで侵略する価値がない。そんな国です。
まぁ、歴史の先生の受け売りですが。
おや?その手でいいのですか?
小さく貧しい国ですが、豊かになることを諦めた訳ではありません。
私たちは国を豊かになる努力をしました。
5代前の王は治水を始めました。大河近くの住人を高台に移動させました。
過去氾濫があった場所に新たに川を作り、流れの一部を西側まで引き込みました。
大河の小さな支流を整理して中位の大きさの川にしました。
最も重要なの河岸の堤防と治水湖(ちすいこ)、当代の王はダムと名付けました。
ここまで整備するのに200年かかりました。
4代前は魔の森の一部の開拓を始めました。
え、何故かって?
少しでも人間が住める場所を確保するためです。
なんっせ小さな国なので。
切り倒した木々は炭って言われる燃料にしました。
はい?森を燃やした?それは炭を作る過程で火を使っただけです。
乱暴に置かないでください。
3代前は農耕に力を入れました。
西の砂漠を超えたところにある大公国…蛮国と言った方があなたにはわかりやすいですか?
大公国は私たちの国よりも、王国よりも金属加工の技術が優れていました。
フェッルムを加工する技術が確立していました。
当時の王は技術者を派遣して教えを請いました。
はぁー。プライドではお腹は膨れません。頭を下げるだけで民が救えるのであれば必然です。
フェッルムで作った道具で大地を耕すとあっと言う間に畑ができ上がりました。
畑の数が増え、餓死が前年の5割になったと言われています。
…顔色が悪いようですが、大丈夫ですか?
2代前…私の祖父母の世代の王は正式に大公国への留学制度を始めました。
王侯貴族以外でも優秀であれば留学できるこの制度によって、我が国では技術革新が起こりました。
牧畜が産業として成り立ったのもこの時期です。大公国の最新農法によると動物がいる事によって収穫量が増えることがわかったからのです。
滅多に食べられなかった肉が1年を通して食べることが出来、わがくの食糧事情は大幅に改善しました。
冬の食べものですか?野菜は塩漬けにして保存。肉は老いた動物を捌き塩漬けや燻製という方法で保存しました。
この方法も勿論、王国が蛮国といって見下している王国からの技術です。
はい?草が生えていないと?畑に必要ない草は動物の餌にしてだけです。
先代の王は魔の森の原因を突き止めました。
あなたは魔の森について何かご存知で。
そうです。魔物が発生して人間を襲う。魔の森の呪いによって周辺の住人が倒れる。
先王は魔の森開拓以降、周辺住人が倒れることが少なくなったことが不思議に思ったそうです。
魔の森へ調査隊を派遣し調べた結果、魔物はいない。呪いも存在しないことがわかりました。
呪いとは高温が続いた時にウェーヌムの花から放出される香が原因です。
魔物も普通の動物がウェーヌムの花の香りによって狂暴化した結果です。
この調査以降、高温時にウェーヌムの花を駆除することになりました。
チェック。
さて、今代の王は魔王と呼ばれているようですね。
王国の民を誘拐している?
それは違う。難民を保護しているだけ。
あなたが言っている自国民って当時侵略をしていた国の国民のこと。
逃げ出した奴隷。王国国内は腐敗が進んでいるようで。
戦争を仕掛けて来たのも王国から。だからこれは正当防衛。
チェックメイト。
あなたも憐れです。
何も知らず、何も教えられず、祭り上げられて。
さて、勇者様。貴方は今代の王アミュグダルス・ペルシカの首を取るか?
私は逃げも隠れもしない。
勇者様。決めるのは貴方だ。
三等書記官は正しき者が勝ったと報告したのと同時に、勇者は死闘の果てに力尽きたと記す。
三等書記官はこの地に骨を埋めたいと本国に許可を求め、許可された。
勇者はこの地に眠る。
おわり
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