第8話



「あれ?もしかして歌恋ちゃん?」


その声にビクッと肩を震わせ背中を向ける。

今誰かに会うのは猛烈に嫌だった。


「聞こえてる?歌恋ちゃんだよね!!この街に住んでたんだ…」


ふっと視界に映るその顔に自分でもわかるほど喉が締まる。

空気が薄くなり呼吸のし辛さを体感する。


「あれ?泣いてる?どうしたの!!」


慌てて鞄を漁ってハンカチを目に当てる彼女に元から緩い涙腺がさらに緩くなる。


「とりあえずあそこに座ろっか…」


モカブラウンの見覚えのある髪の毛の彼女に静かに頷くと腕を引かれて公園に入りベンチに座り込む。


未だ冷えた空気に晒された気の冷たさに身震いをしつつハンカチを下ろす。


「歌恋ちゃんがこの街に来てると思わなかった…というか、この世界に来てると思わなかった」


安堵した声でそう言う彼女に私は驚いた様に目を向ける。


餌を食す金魚の様にパクパクと口を動かす。

なんで“それ”を知っているの?ただの生徒の1人のはず…


この世界にいる楽士の顔と名前を一致させつつ考えるが全く揃わない。


不思議そうに首を傾げる彼女に押し付けるようにハンカチを返すと慌てて駆け出し駅前に向かう。


「kureru《くれる》!!どうしてこの世界が現実じゃないって気付いてる子がいるの!!」


泣きそうな声でそう叫ぶと虚空から長い髪揺らしてkureruが現れる。


「どうして…綻び二気付いてるノかな…」


困ったようにそう答える彼女にため息をひとつ零し首を横に振る。

kureruは良くやってくれてる。ちゃんとここに来る子の記憶も消して新しい人生を与える職務を全うしてくれているkureruを責めたてるわけにいかない…


何かが足りなかったんだ…天声あまねにはお母さんがいたはずだし、家族構成で気づくことは無い…とすれば周りの友達で気づいた?


いくら考えても私の脳みそは足りてないようで一向にわからなかった。


仕方なく私は自室に籠り曲を作ることに専念したがさっきの事象が頭にチラついて作業が一向に進まなかった。


6時の時報と同時に玲於が部屋をノックして夕食に呼ばれる。

未完成のファイルを保存してPCの電源を落とす。

冷却ファンが泊まる音を聞いて明かりのない部屋から出るとリビングに向かった。

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Lethal dose @Lethal_dose

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