第4話
鞄のポケットから鍵を取り出して鍵穴に差し込み廻す。
ガチャっと音を立てて解錠させると玄関で革靴を脱ぐ。
端に靴を並べるとスリッパに履き替えて自分の部屋に向かう。
ドアの先に広がる縫いぐるみの海を抜けてベットにカバンを投げ捨てPCに手を伸ばす。
───「やっと来た!!歌恋ったら遅いんだから!!」
そう言って私の事を引っ張る彼女。
「ごめんね…?」
申し訳なさそうに謝罪の文言を口にする。
すると彼女は一瞬ムッとした顔をして頬を膨らます。
呆れた様なため息の後“まぁ、歌恋らしくていいけど”と言って私の頭を撫で回す。
いい加減に私も子供じゃないのだけど…と複雑な気持ちになるが今現在私達は高校生な訳だし彼女から見たら可愛い妹分って感じなのかもしれない…
「それで、今日は何をしよっか」
未だ嬉しそうに撫で続けている彼女にふと首を傾げて問い掛ける。
一瞬の間の後彼女はなにか思い出したようにシンセに歩み寄り電子音を部屋に響かせる。
「どう?!」
床に着きそうなほどの長い髪を揺らして嬉しそうに振り返る彼女に胸がザワつく。
そんな感情を彼女にさえ悟られぬ様にいつも通りの笑顔で頷きつつ“いいと思う”と思ってもいない言葉を口にする。
「ホント?!」
軽いピアノの伴奏を合わせれば少し音に厚みが出るかも…
イントロとサビ前にピアノを入れてドラムをここに入れたら…
何処と無く寂しさを感じさせるその旋律にどうにか音の厚みを増やそうと足し引きを繰り返す…
同時に頭に浮かんだフレーズを描き並べる。
が上手い具合に捻り出せずにペンを机の上に投げ思考を中断する。
喉に刺さった魚の小骨の様に上手い具合にフレーズが拾えない。
机に置かれたA4の紙には黒いペンで書かれたフレーズが塗りつぶされていた。
徐に壁に掛かった時計に目を遣ると7時をとっくに回っていた。
kureruにの声を掛けて1度部屋に戻ろうと思ったが周辺に居なさそうなので仕方なく紙を裏返して‘ご飯食べて帰ってくる’と乱雑に書きなぐるとドアの近くの姿見を潜った。
既に日は沈み、電気のついていない部屋は真っ暗だった。
玲於がそうしてくれたのか、窓のカーテンは閉められ、ベットに投げたカバンは綺麗に机に引っ掛けられていた。
制服のまま机に置いてある髪ゴムを掴んで雑に結ぶと私は小走りでリビングに向かう。
「……おかえり」
椅子に座って黙々とご飯を口に運ぶ彼にそう言うと彼は一瞬の沈黙の後に嬉しそうな笑顔を向けて“おかえりなさい”と返す。
慌てて席を立ってキッチンに向かう彼に少し遅れて服の裾を掴む。
「私がやるから…食べてて?」
そう言うと彼は静かに首を横に振って“良いから座ってて”と微笑んでキッチンに消えた。
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