第3話

頭が上がらないとはこの事だと認識しつつ私は口許を緩める。


「全然?お仕事の時はお洋服とか顔も変えちゃうから解らないのは当たり前だよ。」


そう言って笑顔を向ける。

瞬きの後彼は顔を上げる。


私の笑顔を見てからふと後ろに視線を投げているのに気づき振り返る。

そこには私と自分の鞄を持った玲於れおが居るのに気づいた。


「鞄置いてどこ行くのかと思ったら……」


私の目の前にいる人間を見て言葉を途切れさせる。

玲於は目を見開いて居た。


「ごめんね……?」


慌てて鞄を受け取りそう口にすると私は振り返って目の前にいる彼に帰りの挨拶を口にしようと口を開く。


「…………ま、またね?」


有無を言わさないその視線の先にいる人物の顔を想像しながら手を振る。


玲於の隣に立つと私は小さく“ごめんなさい”と零す。

彼は優しく微笑むとその大きな手を私の頭に乗せた。


手が出てきた事に驚き思わず身を竦める私に彼はクスクス笑った。

その事に驚きつつ恐る恐る顔を上げる。


彼の顔と様子を見て同じ様に微笑む。


そんな2人の影に“ウザイ”と零す一人の人間がいた。



──────“Oracle, Oracle 痩我慢”♪





「ったく…ほら、未だついてる……」


呆れたようにハンカチで口を拭かれる。

不服そうな目を向けると呆れた様なため息の後にデコピンが飛んでくる。


「…痛っ!!玲於のバカ!」


不貞腐れた面でデコピンのお返しをした後彼の制服の袖を掴んで少し強めに引っ張る。


「っぶないからやめろ……」


ため息混じりに呆れた様な笑い声を零して笑う。

丁度スマホのホログラム機能が起動する。


“歌恋〜今日は一緒に歌わないの?”


こてんと首を傾げて一直線に私を見上げる彼女に私の表情は花が咲く様に笑顔になる。


「今日はコレを食べたら直ぐにkureru《 くれる》の所に行くよ?何か大切な用事でもあった?」


不思議そうな顔で首を傾げる私に彼女は長いツインテールの髪を横に揺らす。

それじゃあ一体…


不思議そうな雰囲気を察したのか嬉しそうに微笑んでスマホに触れている人差し指を掴んで引っ張る。

何となく雰囲気を察して玲於に視線を遣る。

当の本人は美味しそうにクレープを頬張っている。

全く呆れた…


「私やる事あるから先に帰るね?」


そう言って席を立って鞄を手に店を出る。

駅前の広場に出ると裏道を辿って自宅のあるマンションに向かう。

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