6.調達 カチコミ編

【カラト=フェイケン】

 シルクハットとサングラスを付けた俺とセナは、別の町へ入っていった。

「次に武器を調達するっす」

 セナが町に入ったとき、俺にこうささやいた。

「敵がどれほどの魔法の使い手か、よくわからないっす。手数は多い方がいいっすからね」

「なるほど了解」

 俺は頷きながら、内心ほっとしていた。魔力のない俺は、どうしたって武器を使わないと魔法戦闘などできない。今だって一応、防御魔法を仕込んだ服を着こんでいるが、攻撃手段はほとんど持っていない。

「ん? でも、武器なんてどこから調達するんだ?」

「ここっす」

 セナがちょうど目の前にある建物を指さした。

 その建物は、町の大通りにあるにもかかわらず、ほとんど人の出入りがない。入口の前には、ガタイのいい男が二人、とおせんぼうをするように立って、俺たちのことを睨みつけている。そして、普通の店の看板の代わりに、地味な文字でこう書かれている……『リバーホーン・ファミリー』。

「ちょいちょい、セナさんや」

 俺はセナに上ずった声で話しかけた。

「こちらの建物ってマフィアの事務所なんじゃ……」

「っすね」

 セナは、こくりと頷いて俺にニッと笑いかけた。

「知ってます? こういう連中で武器持ってるんっすよ」

「だろうねぇ!」

「譲ってもらいましょう」

「はぁ……?」

 俺はこいつのやりたいことをなんとなく察してしまう。

「まさかお前、ここから強奪しようなんて……」

「カラトさん、タイミング合わせて突入しますよ」

「待て待て、二人でなんて無謀……」

「はいどーん!」

 セナは元気な掛け声と共に、手から電撃を繰り出した。

 鼓膜の裂けるような音と共に、稲光は入り口にいた見張りの男どもに食らいつく。

「「うわーっっ!!」」

 哀れ男どもは叫び声と共に倒れこんだ。

「よっしゃぁ、突撃!」

 セナはうきうきとした足取りで、建物のドアを蹴破って中に飛び込んだ。こうなりゃヤケだ。俺もセナの後ろにくっつくようにして、建物の中に入る。

 建物の中では、ぎょっとした様子の屈強な男どもが、何事かと俺たちを凝視していた。一番派手ななりの男が、怒鳴り声をあげる。

「てめえら、いったいどこのモンじゃい!」

「騎士団だ! これから強制捜査する! 持っている違法武器ぜんぶ出しやがれぃ!」

 セナはそう言って、大電撃を指先から放った。ぎゃああ、とマフィアどもが叫び声を上げながらまともに喰らって、バタバタと倒れていく。

「セナぁ!」

 俺が巻き添えを食らわないように、部屋の隅から、セナに向かって怒鳴り声をあげた。

「あ、カラトさん。ちょっと交渉役やってくれませんか?」

 セナは、俺を見ながら、顎で部屋の真ん中にある大きなテーブル指した。……仕方がない。俺はしぶしぶテーブルの前に行き、そこにあった椅子に腰掛けると、まだ動けそうなマフィアの下っ端君に声をかけた。

「君、ちょっと君たちのボスを呼んでくれないか?」

「ふざけんなよこのヤロォ!!」

 まだ動ける連中が俺に飛び掛かって来た。

 俺は落ち着き払って、立ち上がると座っていた椅子を片手で持ち上げた。

そして、同時に襲い掛かって来た三人の男を、椅子を使って思い切り殴る。

哀れ三人の男は壁まで吹っ飛ばされて叩きつけられた。様子を見ていたほかの下っ端たちがあっけにとられたように固まる。

「悪いが俺は交渉のテーブルで負けたことはない」

 俺は殴りつけた椅子に再び腰かけながら、少しだけ自慢をした。

「貸した金を返さない奴も、美人局を仕掛けてきやがったチンピラも、賭けトランプのインチキしてやがった連中にも、俺はこの手で説得させてきた……」

「果たしてそれを交渉というのか……」

 セナが呆れたようにぼやく。マフィアの連中は恐れをなして、慌ててボスを呼びに行った。

 数分後。

 俺の座るテーブルに、大量の、様々な武器が並べられた。

「これですべてです……」

 出合い頭に不運に見舞われたような表情のボスが、そう言って俯く。

「うっほー、溜め込んでますねぇ!」

 セナが呆れたような声を上げて、検分をしていく。

「ナイフ・剣はもちろん、元軍用のクロスボウA―RBに、違法製造弓通称『ヴィオラ』、『ハイパーステッキ』……まるで非合法の見本市っすねぇ……おや……」

 軽口をたたいていたセナの手が、ある武器を見つけたときに、ぴたりと止まった。

「初めて見るやつっす……」

 マフィアのボスが肩をすくめた。セナは曇った顔で、手に取ったステッキのような武器を、分解しながらつぶさに観察をして、マフィアのボスを睨みつけた。

「これ、どこで手に入れたっすか?」

「……数週間前、こいつをある人間に横流しするように、金を渡された」

 マフィアのボスはぶっきらぼうに言う。

「それ以外、雇い主は俺たちに情報をくれなかった。俺たちもある程度探ろうとしたんだぞ? でもダメだった。わかったのはそのステッキみたいなのか、かなり性能のいい矢の発射機だったってことだ。ご丁寧に、学はある方だと思っている俺にもわからないような魔方陣のついた、魔法矢が数十発も付属でついている」

 セナは、冷たい目でマフィアのボスをじっと見ていたが、おもむろに、分解していたそのステッキ型の武器を組み立てなおすと、同じ種類のをもう一本手に取って、俺に言った。

「今日はこのくらいで引きあげるっすよ。このステッキ型の武器は持っていくっす」

「わかった」

 俺はそのステッキをセナから受け取ると、セナと共にマフィアの事務所から引きあげた。


 【モール、ヴューレット】

 その数分後、モールとヴューレットは、先ほどまでカラトとセナが訪れていたマフィアの事務所に向かって歩いていた。

「最後に、武器を確保しよう。場所はホーンリバー・ファミリーの事務所だ」

「マフィアの事務所ですか……!」

 ヴューレットが目を見開いて驚く。モールは頷いた。

「ああ。武器を一般市民に成りすましている協力者に託すには荷が重すぎる。それに金の損得で動くマフィアは、ある意味裏切りと心配する必要のない協力者だ」

 だが、ホーンリバーの事務所にたどり着いた二人は、すぐに異変に気付いた。

 事務所の扉は半壊し、中ではたくさんの組員がすったもんだで何かの作業をしている。

「おい、お前らがもしかして、例の客人か?」

 あっけにとられているモールとヴューレットに、破れた扉の前で見張りをしていた男が声をかけた。

「ああ、ここに用があったんだが……」

 モールが言うと、男はフンと鼻を鳴らして言った。

「ボスからの伝言だ。

『騎士団の強制捜査に遭った。商品は押収された。取引はできない。今後もあんたらとは関わらん』

 以上だ」

「なっ……」

 モールが驚愕の表情になって、男に詰め寄る。

「ふざけるな。テメェらの不手際じゃないか」

「すまんが、ボスはすでに高跳びしてる。これ以上、おたくらに何かできるわけでは……」

 男は、少し思案するような顔になった後、モールにささやき始めた。

「ボスが言っていた。俺たちの事務所に飛び込んできた奴ら。一人は騎士団らしかったが、もう一人の男は騎士団じゃなく、ただの貴族の坊ちゃんらしい。フェイケンっていう名前らしいが……」

 モールとヴューレットの顔色が変わった。男はニヤリと笑った。

「そいつらは、俺たちの事務所を出た後、なぜか知らんが町のはずれの方へと歩いて行った。あっちには宿屋はねぇ。ただその先は山道になって、途中にコテージがある」

 男は、日が傾き始めた空を見ながら、二人にそう教えた。モールはなおも厳しい目をしたまま、男にぶっきらぼうに礼を言った。

「ありがとう、情報感謝するよ」

「ははは、じゃないとお前さん、俺をボスへの見せしめに殺すかもしれんだろう?」

 モールとヴューレットは何も答えず、男の前から立ち去った。

「気をつけろよ、お前ら」

 男が二人の背中に声をかけた。

「奴は結構やり手らしいぞ」

 そんなこと知ってる。

 モールはそう心の中でつぶやきながら、ヴューレットと共に、山へ向かった。

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