第29話 第3回公演は短い視点で見れば成功。長い視点で見れば失敗だったに違いない!


 前回までのあらすじ


 第3回公演直前だと言うのに裏方達から白い目で見られ始めた役者A。

 すでに内部は空中分解寸前のボロボロ状態でしたが、自分の作った実験的な脚本でどのような演劇が出来るのか? という好奇心で、辛うじて劇団の運営を続けるGhost。


(これで得る物が無ければ終わりだな……)


 そんな思いの中、3回目の公演が始まるのでした(/・ω・)/




○主催者の体たらくさはさておき、ミュージシャンAさんスゲェ。


 前回、前々回の公演と同じく、第3回目の公演も相変わらずの裏方不足。

 よって、当日の僕の仕事はこんな感じ。

 小道具等の搬入。ステージ内の照明配線、音響配線。照明、音響の設置。ゲネプロの進行。照明オペ。舞台監督として全体の進行。撤収。


 はい、やっぱり仕事が多すぎます。

 ここまで来ると一つ一つのクオリティを下げる必要がある為、細かいところの粗は多かったと思います。


 演目としては

・ミュージシャンBのカラオケ

・ミュージシャンD君の弾き語り

・ミュージシャンAさんの演奏

・役者Aの芝居

 と言った感じ。


 ミュージシャンB(カラオケ)とミュージシャンD(弾き語り)については良い意味でも(D君)悪い意味でも(B)前回通りなので割愛しますが、このイベントで相変わらずの異彩を放っていたのがミュージシャンAさん。


 僕と一緒にバンドを組んでいた時とは違って、巨大ジュラルミンケースに敷き詰められたエフェクター群(通称・棺桶)は使用せず、エフェクター数個のシンプルな装備とマッキントッシュを一台携えてステージへ上がるミュージシャンAさん。

 トランス的な爽快でありながら幻影的なサウンドを流しながら、ギターの弦を擦る奏法(スクラッチ)を多用するパフォーマンスを見せてくれたのですが、このスクラッチ奏法で作り出した音が、何というか、文章で説明するのは難しいのですが、エレキギターの音色にもかかわらず民族的、宗教的儀式によって生み出される一種のトランスめいた音色……と言いますか、今まで聞いた事の無いような音でした。


 スクラッチと言えば、一般的なのはピックで弦を擦るピックスクラッチ。

 それ以外にも弦を指で擦ってみたり、金属で擦ってみたりすると、これまた違った音色が奏でられるのですが、この時のミュージシャンAさんはそれらとは違う物で弦を擦っていたようでした。

 残念ながら、彼が弦を擦るために用いていた物が何だったのか今でも不明。企業秘密と言うヤツですね(/・ω・)/


 さて、この状況、会場はを目にしているわけですから会場内は騒然とし始めました。

 客席から


「え? あれって、どうやって音だしてんの?」


 と呟くお客さんの声が曲の合間に聞こえてくるくらい。

 そして元は同じバンドのメンバーであり、ミュージシャンAさんのファンでもあるGhost。照明卓をいじりながら、一番楽しんでいたのは僕だったと思います(/・ω・)/




○さて、肝心のお芝居の方は?


 イベントのトリとして役者Aによる芝居が行われたわけですが、自分で言うのはなんですが、悪くない出来だった、と思われます(/・ω・)/


 他に無い表現である事だけは確かだったので、お客さんの反応も上々。

 ハッピーエンドではない憂鬱な終わり方の物語でしたが、アンケートでは悪評はほぼ無く、好意的な反応を頂けたことを覚えています。

 憂鬱な終わり方に対して、どこか咀嚼しきれないような表情の方も居たのですが、むしろそういった白黒つけられない感情の想起を求めていたので個人的には一番うれしい反応でした。


 この日、僕の地元の友人も県外から見に来てくれていました。

 会場の準備から僕らの様子を見ていた彼ですが、イベント終了後に世間話をしている時、僕の演出の特徴について総括してくれた言葉があります。

 その言葉は抽象的でしたがイベント当日の出来事を事細かに書くよりも、現場の状況を分かりやすく現していました。

 その会話がこんな感じ。


友人

「Ghostの作品の作り方なんだけど、芝居もそうだし、イベント全体を通しても共通している点があるね」


Ghost

「ほう? そのこころは?」


友人

「偉そうなこと言っても良い?」


Ghost

「かまへん、かまへん」


友人

「たとえ話になっちゃうんだけど、例えばみんなで『ケーキを作ろう!』って計画するじゃん? で舞台監督のGhostはケーキの材料を準備して、鍋とか包丁とか道具もそろえて、みんなを集めて、さぁ、いざ作ろう! ってなるんだけど、そっからが無茶苦茶でさ」


Ghost

「無茶苦茶とはいかに?」


友人

「みんなでケーキ作ろうとしてるのに、Ghostは一人で小麦粉ぶちまけたり、卵投げつけたり、牛乳飲み始めたりしてるのね。つまりは空気を読まない。

 で、その様子に周囲は慌てるんだけど、そのパニックも演出の一つって言うか、計画的にやっていて、パニックになりながら、みんなは当初の予定通りケーキを作ろうと頑張っているうちに、あら、不思議。最終的に。で、食べてみる。おいしい。じゃあ、良いか、イベント成功、みたいな」


Ghost

「え? なにそれ、褒めてくれてんの!?」



 まぁ、たしかに小説でもそうですが、言葉でしっかり説明してしまうと想像力の入り込む余地がなくなってしまうので、演出も言葉で説明しつくのではなく目的の形に向かうようにように心がけていました。

 そもそも言っても聞かない連中ばかりという理由もありますが(笑)


 ちなみにこの演劇終了後。芝居を見に来ていたCM監督さん(役者Aの知り合い)から声がかかり、役者AはCMの撮影に参加。釈由美子さんと共演したとか。

 ま、共演と言っても、釈由美子さんと、その他大勢、みたいな感じでの共演ですが、きっかけとなった今回の芝居をセリフも覚えていない段階から見れる物に仕上げたのは僕なので、僕のお陰と言う事にしておきましょう(半ギレ(笑))。




○イベント撤収中に、演出の重要性の一端に気づくGhostだった。


 さて無事にイベントは終わり、その撤収中の事です。ミュージシャンAさんは予定があると言って打ち上げに参加せずに先に帰ったのですが、そこにすかさず駆け寄る役者A。


役者A

「ミュージシャンAさん、ありがとうございまいた。少ないですけど、これ」


 と言って封筒(中にはお金)と差し出す役者A。それに対して白い目で


ミュージシャンA

「いや、いらないよ」


役者A

「いえいえ、受け取ってください」


ミュージシャンA

「いらない」


 みたいな、すったもんだが発生。最終的にお金を受け取ったのか否かは覚えてませんが、うん、もはや金の問題じゃねーんだよな。


 その後、劇場前で荷物を積み込んでいる時でした。すでに夜の9時くらい。商店街の一角に劇場はあったのですが、辺り真っ暗。

 そんな中、通りの向こうから足を引きずって歩く人影がありました。


Ghost

(誰か近づいてくるなぁ。迷惑にならないように撤収しないと)


 なんて思っているくらいで特別気にしていなかったのですが、その人影は近くまでやってくると僕らに話しかけてきました。


人影

「○○はどこか知ってますか?」


 そう問われても、僕らは地元の人間じゃないからわからない。けれどそんな事より、気になる事がありました。その足を引きずって歩いていた人影は、近くで見てみると大体60歳代くらいの男性。酔っているようで赤い顔をしていたのですが、それだけでなく、頭からちょっと血が滲んでいました。おいおい、大丈夫かよ。


 この時の僕は妙に感覚が鋭くなっていたようでした。イベントが上手く行ったおかげで、ちょっとハイになっていたのかもしれません。もしくは統合失調症と、禁薬のせいでイカれてただけかもですが(/・ω・)/

 不思議な感覚があって僕の周囲の空気……僕以外の僕の周りにいる人達の感情が一つに収束していくような気がしました。その収束した感情を端的に説明すれば、


(うわ! 面倒くさそうな酔っ払いが来た!)


 と言った感じ。腫物を扱うような視線を皆が送るので、酔っ払いのオジサンはおずおずと足を引きずって去っていきます。


 この時、深い思案はなかったのですが、この固まった空気を攪拌させたら面白いんじゃないの? と感じました。何というか、固まった概念をぶっ壊したかったのです。ただ、個人的に楽しむために(/・ω・)

 すかさず、お客さんに配っていたペットボトルのお茶の余りを荷物の中から引っ張り出すと、そのオジサンを追いかけました。


Ghost

「おとうさん、おとうさん、ちょっと待って。この辺、俺も道わかんないし、やる事があるからなんも手伝えないけど、これ持って行きな」


 そう言ってお茶を差し出しました。その酔っ払いのオジサンは「他の人達は相手にしてくれなかったのに、ありがとう」とお礼を言ってくれました。


 さて、一見するとのように見えるこの行動ですが、今になって思い出しても、この時の事を”良い事をした”と感じる事は無かったりします(/・ω・)/

 それよりも”自分を取り巻く空気を読んで、その上で空気をぶっ壊して、よりシンプルで良い結果へと全体を導く”という演出の持つ力と、その可能性に気づけた事の方が僕をワクワクさせてくれました。


 ま、このワクワクが結果的に第4回公演へと繋がる精神的キッカケになって、その結果、役者Aにイライラさせられる期間が延びたのですが、それはまた別のお話し。


 ちなみに僕が酔っ払いのオジサンにお茶を上げた後、ミュージシャンBが


ミュージシャンB

「アタシ、病院で働いてるんで緊急連絡入れておきますー」


 とか言って病院に連絡入れてたけれど、いやいや、意味なくない? オジサンもう居ないし。そもそもアンタが働いてる病院ってこの劇場から車で2時間近くかかるじゃん?

 うーん、今思い出しても謎だ。一体何がしたかったのだろう……もはや怖い(/・ω・)/


 と言ったところで今回のエピソードはお終い。

 次回は演劇は少し中断して、再び路上での活動を描いていこうと思います。

 第三回公演以降、なぜか変態たちとの遭遇率が爆上がりした路上での出来事をご紹介していきます。


 to be continued(/・ω・)/

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