ストリートレジ袋ファイター

@konkanipe

第1話

 ー2030年、レジ袋が途方も無い高級品になっていた。

 2020年にレジ袋は有料化されたが、時を同じくしてSARS-cov 2の流行、それに伴う東京五輪の中止、更には2025年大阪万博のインターネット開催(インターネット老人たちは「インパク2025」とよんだがそれは別のお話である)に伴い浮上するはずの景気は下降線をたどり、日経平均株価は一時5000円台を記録するまでに至った。当然、日本人の平均所得も下がり、日々の買い物にレジ袋を買うことができるのは一部の富裕層のみに限られてしまったのである。

 国民の貧困化に伴い、全国的に治安が悪化した。以前は大阪名物とまで呼ばれたひったくりなどの窃盗も都市部を中心に急増していった。その中で現れた犯罪が「レジ袋狩り」と呼ばれる強盗である。コンビニなどの出口で待ち伏せをし、レジ袋を下げて出てくるものに対して暴力をふるい、現金を強奪する行為である。当初は一昔前に流行った「ATM重機輸送」「サムターン回し」「オレオレ詐欺」などの一時的なものだと考えられたが、ターゲット箇所の多様さや強盗の直前までは出入り口でうろついていればよい、というカモフラージュ性などにより事前の摘発・警戒は困難なものとなった。

 「レジ袋狩り」が散発的かつ長引く強盗行為となったことで「狩る」方「狩られる」方にも変化が現れた。「狩る」方では緩やかではあるが強盗内での階級付けが生まれだした。例えば、狩る対象のレジ袋は小さいければ小さいもののほうが良い、強盗後のレジ袋は必ず回収する、レジ袋には極力穴を開けたり破いたりしてはならない・・・などの細則が暗黙の了解として生まれだしたのである。「狩る」方も当初は数人のグループ単位の行動だったが、次第に大規模化・組織化されだしてきた(まるで軍隊のごとく)。一方、「狩られる」方も中には暴力に対して暴力で抵抗するものがいた。強盗を返り討ちにし、彼ら自身の本来の目的を粛々と達成するだけである。中には強盗の方を怪我させるケースもあったが、殆どの場合は「正当防衛」で無罪放免となった。暴力で抵抗する動きが水面下で広がり、強盗を何人破ったか、レジ袋を何枚美しい、傷のない状態で持ち帰ったかがやはりステータスとなっていた。

 次第にSNS等でレジ袋保有枚数が共有されるようになり、全国的に順位付けされるようになっていった。ランク上位のものは己の力強さを示すのみでなく、関係者から尊敬の眼差しを受けるようになっていった。一方、参加者の中にはレジ袋を通貨の代わりに使いだすものが現れるようになった。相場である1枚3~5円よりも高値で取引されたため(なぜなら暴力を耐え抜いているため)、たちまち闇経済が広がることとなった。当初は非常に規模が小さな、個人同士での取引に使われるものでしかなかったが、次第に違法薬物や密造酒に手を出すものすら現れるようになった。当然、政府・警察も黙って見ているわけには行かず、対策としてレジ袋の再生資源品使用義務化と無償供給の再開が行われるようになった。

 以上が2020年代前半のレジ袋にまつわる記録である。

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