第6話
「もう初詣に行ったって…どういうこと?」あゆみは驚きを隠せない。
「年末に行ったんだ」
「年末?年末っていつのこと?」
「えっと、12月の23日」
「私に黙って?」
「うん」
「何なのそれ?ありえない」
ジュンは年末にこっそり帰省して、あゆみに黙って坂宮神社に参拝したのだ。あゆみにはどういうことなのかさっぱりわからない。
「この日だけ休みもらって、日帰りに行ったんだよ」
「日帰りで…」
「朝に家を出て昼頃着いて、そのまま神社に直行して、参拝してまっすぐ帰った」
「私に会おうともせずに?連絡すらせずに?」
「ああ、その日はあゆみは仕事だから、一緒に行けないのわかってたし、クリスマス後の年末に帰ってくるのも、街が騒がしくなるから今のご時世リスクがあるからと思って…」
「でもさ、どうして去年のうちに行くの?年が明けてから、2人が会える時になってから一緒に行ってもよかったじゃない?」
ジュンにもっともらしい正論をぶつけるあゆみ。さっきまで抱いていた心地のいい「ありがとう」という気持ちはとっくにどこかに飛んでしまっている。とにかくまだジュンの行動が謎過ぎて理解に程遠い状態なのだ。
「あのさあ」ジュンの語気が強くなる。ジュンは、あゆみとの会話で旗色が悪いと、急に語気を強めてあゆみを少し驚かせる。ジュンのせめてもの抵抗だ。
「12月のうちに神社にお参りすることを『年末詣』というんだよ。年末は人が少ないから、願いごとがゆっくりできるからいいんだよ」
「あ、そうなの」
あゆみはそっけない。あゆみはジュンが自分に黙って一人で参拝したことがやはりどうしても腑に落ちない。
ジュンもあゆみのその本音が伝わっている。
「でもね」まだまだあゆみに押されていると感じておるジュンは強引に話題を変えようとする。
「何さあ」
「オンライン参拝というやり方があるなんて知らなかったからさ…。」
「え?」
「その場に足を運ばなくとも、ネットの映像を見ながら初詣に行った気分になれる、って発想がなかったよ」
「ふうん」
「だからさ、あゆみが夕方にオンライン参拝のことをLINEで教えてくれた時、もう参拝しちゃった俺は『しまった』って思ったのさ。そうだその手があったんだって」
「そうよ、ジュンなら一緒にオンラインでお参りに行けるって思ったから誘ったのよ!」
「でも、もう参拝した後だったし、参拝したのばれたくなかったから、LINE通知したときに戸惑っちゃって、既読にできなかったんだよ」
「だからどうして黙ってなきゃいけなったのよ!」
「それはあとでわかるから…」
「あとってどういうこと?」
「今はちょっと…ごめんよ、内緒にしてて。そしてオンライン参拝の誘い、無視しちゃって…」
新年早々「やらかした感」を出して謝ったジュン。
「ごめんね、落ち着いてね、今日はもうゆっくり休んで」
「言われなくても、もう寝るわよ!」
ここで2人の電話は切れた。あゆみは、付き合ってから初めて口げんかで始まってしまった新年に戸惑いを覚えつつ、眠りの床へ着いた。
そして元日の朝。いつも通り7時には目が覚めたあゆみ。今年は実家に帰らず一人暮らしのアパートで迎える元旦だ。恐ろしいほど正月感覚がなく、何気ない日常と何ら変わらない朝だ。こんなお正月を迎えるのは初めてのことだ。
いつもと同じくモーニングコーヒーをすすり、いつも通り目玉焼きを焼いてベーコントーストに乗せる。あまりにいつも通り過ぎる中、正月番組を見てなんとか正月気分を感じようとつとめる。
そして朝の9時。全く思いがけず、玄関チャイムが鳴った。こんな時間に誰かしら?ゆうべのビデオ通話に映ったジュンは間違いなく遠距離にいる彼の部屋からだったし、実家の両親がこんな時間に来るとは考えにくい。
「誰…」恐る恐るドアを開けてみると…
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