第2話

午前0時。新しい年が明けた。


あゆみの傍らに、ジュンはいない。そればかりか、あゆみの心のそばにも、ジュンは寄り添っていない。新年を迎えた瞬間、ジュンはいつも傍らにいて、その太い二の腕のぬくもりを感じていたのに。


8年ぶりに訪れた、たったひとりの新年の夜更け。ジュンの吐息がくっきり映し出す寒々とした夜道とはあまりにかけ離れた、暖房の効いた8畳一間の味気ない小部屋にたたずむあゆみ。


坂宮神社の賑やかしい参道を、身を寄せ合いながら歩くこともできない。手と手を繋げない代わりに、「オンライン参拝」という今風な仮想デートがあることを知ったのに、未読スルーのジュンはデートの提案に気づいてすらいない。


もう一度ジュンに電話してみる。でもやっぱり、彼は出ない。


「どうして出てくれないの…」


歩みは不安を募らせる。新しい年は、5分、10分と静かに時を刻み始める。離れていても、ふたりで神社の画像を追いながら、いつもの変わらぬ初詣の気分をふたりで感じたいのに…


ジュンとは連絡がつかなまいま、あゆみはひとりでオンライン参拝することにした。


なにせ参拝はもう7年も続けてきたことである。いつもならこの時間は、坂宮神社の大鳥居を目指す足取りの中にいる。この時間、参道以外の場所にいる自分が、まるで自分でない感じがするのだ。新しい年の到来に欠かせなかった坂宮神社が今は恋しい。


2か月前に即決して買ったばかりの木目の美しいウッドデスクに不似合いな、もう5年は使い倒してきたノートパソコンを開き、グーグルアースを起動する。検索窓に「坂宮神社」と打つ。


するとじっじゃの周辺地図が現れ、さらに拡大するとなんと、神社のリアルな映像が浮かび上がってきた。さすがに有名どころだけあり、神社の社殿の鮮明な写真だけでなく、大鳥居へと続く200メートルはあるであろう参道の写真まではっきりと表示された。参道の入り口から大鳥居までリアルな映像が画面上に広がり、マウスを動かしながらまるで実際に歩いているかのように、参道を進むことができる。


「ジュンに見せたかった。見てほしかった。同じ画面を見ながら『一緒に歩き』たかった…」


これまでの7年と同じように、今年もふたりでバーチャルな参道を歩きたかった。ふたりはたとえ離れた場所にいても、本殿へ歩を進めるあのワクワク感は共有できたはず。なのに、ジュンと今つながっていないのがあゆみにはつらかった。


使い古したパソコン画面の向こうには見慣れた道がある。初詣客でごったがいする例年のざわめきは味わえないが、それは確かにいつもこの時間にジュンと歩いている道。


じわじわとあゆみの脳裏に浮かんできたのは去年の今頃の記憶だった。


あざやかに蘇ってきたのは、ジュンとともにいた、2020年元日深夜の坂宮神社の景色だった。

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